見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
531 / 826

五三一

しおりを挟む
 敵も必死だ。
壁のように群がって俺の行く手を阻んでくる。
回転は次第に勢いを失い、化け物どもを引き裂けなくなってきている。

 べしっ

 サフィリナックスヒューイットの先端数センチが、バーデンの頬を叩いた。

「!?」

 バーデンの表情が劇的に変化した。

 どさっ

 俺はそのままバランスを崩して床に落ちた。
そこへ化け物どもが群がってくる。
まるで砂糖に群がる蟻のようだった。

 くそ、俺もここまでか。
俺は完全に観念していた。

「ぎいぃぃぃー!」

 遠くでバーデンの断末魔が聞こえる。
いや、断末魔であってくれ。
突然ニーズヘッグが暴れだす。
蜻蛉洲の猛毒が効いているのだな。
そうであってくれ。

俺はのたうち回るニーズヘッグに合わせて、床を右に左にと転がされる。
たぶん、外からニーズヘッグに毒を注入しても効かなかった筈だ。
あの馬鹿みたいな再生能力があれば、毒で死んだ部分などたちまち再生するに違いなかった。

 本体であるバーデンが無傷なら、何度でも再生するのだろう。
だからこそニーズヘッグは執拗に頭部を守っていたのだ。
バーデンを庇う為に。

 くそ、もう駄目だ。
意識が遠くなりつつある。
体に吸着してくる化け物どもに、体は半分取り込まれつつあった。

 喰われているのか。
こんな所で死んでいる場合では無いんだがな。

 ミーア

 妹の顔が思い浮かぶ。
だが、駄目な物は駄目だ。
どんなに頑張ってももう動けない。

「まあ、そう悲観するなよ」

 どばあっ!

 そう聞こえたと同時に床が盛り上がって破裂した。
いや、床を突き破って何かが侵入してきたのだ。

 なんだこりゃ。
これは、手?

 巨大な手が床を突き破って現れたのだ。
これはセンチピーダーの手だ。

 がしっ

「うお!?」

 センチピーダーの巨大な手は、俺を無造作に掴まえるとそのまま天井を突き破った。

「お、おい、熱い。熱いぞ……!」

 俺は身を焼かれるような熱さに悶絶した。
しかし、そんな中であっても身じろぎ一つ出来ないのは、センチピーダーに掴まえられているからだけでは無かった。
もともと動く力など残ってはいないのだ。

「我慢しろ。スイッチはとうに切っている。ただの余熱だ」

 五〇〇〇度弱の余熱など、とても余熱とは言えない。
改造人間でなければ死んでいる。

「良かったじゃないか。改造人間で」

 オオムカデンダルはそう言って笑ったが、笑える温度では無い。

「ニーズヘッグの動きが止まったからな。だから間に合った。レオ、良くやった」

 オオムカデンダルはぶっきらぼうにそう言った。
センチピーダーはニーズヘッグを突き破り、外へと飛び出す。
俺は辺りに視線をやる。
元の景観は見る影も無い。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

魔法少女のなんでも屋

モブ乙
ファンタジー
魔法が使えるJC の不思議な部活のお話です

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

処理中です...