見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五二七

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 ニーズヘッグがのたうち回る。
中に居る俺たちも、散々に振り回されていた。
嵐の中の小舟でも、ここまでは揺れまい。

「火を吐くタイプのドラゴンならもう少し堪えられたのかもな。ま、そこがコイツの運の尽きよ」

 オオムカデンダルが可笑しそうに言う。
火を吐くタイプのドラゴンなら、それはそれでまた別の嫌がらせを思い付いていただろうに。
なかなかに性格がよろしくない。
今に始まった事ではないが。

「コイツの形状からして、このすぐ真上が脳の筈だ。脳があるならだが」

  ニーズヘッグは幼虫のような姿をしている。
いや今はもう、もっと長くなってミミズのようだったか。
ジャイアントワームが大ミミズと呼ばれていたが、コイツに比べたらどこが大なんだと言いたくなる。

 そのミミズのような形状から、口のすぐ真上が脳だとするなら確かにもう手の届く距離だ。
だか、目も耳も鼻もないこんなモンスターに脳があるのか。

「脳じゃ無くても何かはあるだろ。でなければあんなに嫌がったりしない」

 それは確かに。

 シュワアアアアアッ!

 センチピーダーの表面から白煙が立ち上る。
もうさっきからずっとだ。
これはセンチピーダーの温度が高温状態になっているからだけではない。

「くそ、ヤツも必死だな」

 オオムカデンダルが言う。

「また来るぞ」

 オオムカデンダルが言うと同時に再び酸が浴びせられる。

 シュワアアアアアッ!

 これである。
ニーズヘッグは何とかセンチピーダーを吐き出そうと大量の強酸を吐き続けていた。
洗い流そうと、押し出そうと、吐き出そうと、津波の如く酸を吐き続けている。
そのせいか、センチピーダーの表面温度が冷却されて思うように上がっていかないのだ。
さっきから五〇〇〇度の壁を破れないでいる。

 いや、五〇〇〇度だってもう十分に訳の判らない温度ではある。
しかし、それでもまだ活動しているニーズヘッグは尋常では無い。
さすがは龍の眷属か。

「……急がないとさすがに不味いか」

 オオムカデンダルがばつが悪そうに言った。
おい、やめろよ。
ここに来てそんな事を言うんじゃない。
目の中に映し出された警告の文字が、さっきから引っ切り無しだ。

 武器を使おうにも両手は踏ん張っていて使えない。
ミサイルも距離が近過ぎて自殺行為だ。
どうする。

「……何とか頑張って温度を上げる」

 オオムカデンダルが言った。
マジか。
我慢比べかよ。
俺の背中に冷たい物が走った。

 シュワアアアアアッ!

 外から酸が蒸発する音と、センチピーダーが溶ける音が、両方同時に聞こえてくる。
こんな所で、こんな死に方するのか。
歴史上、他に類を見ない死に方だな。
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