見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
508 / 826

五〇八

しおりを挟む
 更に色濃く、恐怖の霧がバーデンから放たれる。
なんと言う光景か。
まさに地獄だ。
兵士たちはみな一様にもがき苦しんだ。
口々に助けを求める言葉を吐き出す。

「だ、だれかあっ!助けてくれぇ!」

「ひいぃぃ!い、いやだあっ!うわああっ!」

「お、おかあさぁん!怖い!怖いよお!」

 屈強な男たちが泣き叫ぶ姿は、哀れと言うよりも、恐ろしかった。
しかし、それでもオオムカデンダルは微動だにしない。

「……本当にどうなっている。心が無いのか貴様は」

 バーデンが眉間にシワをよせた。

「……理由はいくつかあるな。まず、俺たちはお前が想像出来ないような死線をくぐり抜けて来ている。この程度の恐怖は何度も味わった。だが、人はそれを乗り越える度に強くなるのだ。恐怖に際限は無いが、人の心の強さにも際限は無い。一生恐怖との競争が続くのだ。ボンボンには判るまいが」

「く……っ!」

 バーデンが忌々しげにオオムカデンダルを睨み付ける。
ボンボン扱いが本当に勘に触っているようだ。

「二つ目に、お前は科学者と言う物を知らない。科学者の原動力は純粋な好奇心だ。その純度は高ければ高いほど優秀な科学者となる。そのピュアな好奇心は、時に恐怖とのせめぎ合いにも勝るのだ。判るか?怖いもの見たさで、絶対にやってはならない一線も越えてしまう。科学者とはそう言う人種なんだよ」

「カガクシャ?何を言っているか判らんな」

 バーデンが吐き捨てるように言う。

「難しい事を言ってしまったな。詫びよう。簡単に言えばお前のチンケな宴会芸など、科学者にとってはただの好奇心の対象に過ぎないってこった」  

「なんだと……!」

 バーデンが鼻白む。

「ただの好奇心の対象だと……!」

「この程度のネタで拍手がもらえるとでも思ったか?観客舐めんじゃねえ」

 そう言うとオオムカデンダルは一歩前に歩み出た。

「お前如きにゃ勿体ないが教えてやる。怖いってのはこう言う事だ」

 そう言ってオオムカデンダルは仁王立ちになる。

「変身」

 くるり

 その場で一回転すると、一瞬にしてその姿はオオムカデンダルのそれに変わった。
バーデンが動揺する。

「お前もか……!」

「部下も出来るのだから、その上司も当然出来るさ」

 しかしオオムカデンダルのビジュアルは、俺とは比べ物にならない程のインパクトがある。
ムカデをモチーフにしたと言うその外観は、明らかに嫌悪感をもよおす醜悪なデザインだ。
一目見てムカデ人間だ、と誰もが直感する。
見た目からして既に怖いのだ。

「醜悪なツラだ……」

 バーデンが精一杯の嫌味を言った。

「お褒めにあずかり光栄だ。では、改めて自己紹介しよう」

 オオムカデンダルが胸に手を当てる。

「俺の名は、秘密結社ネオジョルトが幹部。怪人オオムカデンダル」
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...