見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五〇六

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「何者だ、貴様」

 バーデンが声の主を見た。

「この男の上司だよ。うちの行動隊長が世話になったみたいだからな、挨拶に来たって訳だ」

 オオムカデンダルはそう言って俺を見下ろした。

「だいぶやられたな。しばらく休んでろ」

 オオムカデンダルは俺を一目見てそう言った。
こんな事は珍しい。
後で何か言われるんじゃないかと俺は勘ぐった。

「上司だと?」

 バーデンが鼻で笑う。

「秘密結社に上司が居るとはな」

「どんな社会にも上司と部下ってのは居るんだよ。ボンボンには判らんかもしらんが」

 オオムカデンダルの言葉にバーデンが眉をピクリと動かした。
ほぼ初対面なのにもかかわらず、相手の嫌な所を言い当ててくる所が如何にもオオムカデンダルらしい。

「誰がボンボンだ。私は帝国将軍だぞ、その辺のただのエリートと一緒にしてもらっては困る」

 バーデンが反論する。
捨て置けないと言う事は図星だったのだろう。
どうやら気にしているらしい。

「ふん。ボンボンが血筋で親父の威光を受け継ぐのと、どこが違うんだ。お前のその才能も由緒も、お前が自分で培った物ではあるまい」

 オオムカデンダルがポケットに両手を突っ込んだまま言った。

「貴様……!」

 バーデンが気色ばむ。

「さて。無駄な話はこのくらいにしておこう。俺の用件はそんな事じゃない。部下の失敗は上司がリカバリーするものだ。うちは至ってクリーンな組織なんでね」

 そうだっけか。
俺は地面に横たわったまま、二人のやり取りをただ見ているだけだった。

「……その男の上司だと知って、生かして帰す訳にはいかんな」

 バーデンが再び殺気をみなぎらせる。
殺意を隠そうともしていない。

「相手を知らないってのは怖いモンだ。お前、ここで負けたら逃げ場は無いぜ?リベンジマッチは無しだ」

「抜かせ!」

 言うが早いかバーデンが斬り込む。
速い。
ヘイストの効果がまだ残っているのだ。
不意を突く形でバーデンがオオムカデンダルの懐に飛び込んだ。

「死ねっ!」

 抜き放たれた藍眼鉱の剣が、蒼い光を放ってオオムカデンダルの首に打ち込まれる。

「!?」

 だが、血相を変えたのはバーデンの方だった。

「な、馬鹿な!?」

 バーデンの剣先は、喉元でピタリと止まっていた。
オオムカデンダルが、二本の指でつまむように受け止めていたからだ。

「不合格だ。修行を怠けていただろう、お前」

  そう言ってオオムカデンダルが剣先を離す。
バーデンはたたらを踏んで後ろへ下がった。

「勇者様が本気で毎日修行していたら、如何に俺でもこれほど簡単にはいかなかっただろうよ。やっぱりお前はボンボンだ」

 オオムカデンダルは、ふん、と鼻で笑った。
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