490 / 826
四九〇
しおりを挟む
「ふうん。こんな所にねえ」
オオムカデンダルは建物を見て呟いた。
「どうぞ」
使いの者が扉を開けて中へ招き入れる。
俺たちは意外と長い廊下を歩く。
この奥の部屋にソル皇子は居る筈だ。
使いの者が最後の扉を開けた。
中の部屋にはテーブルがあり、やはりソル皇子が座っていた。
皇子が座るにはあまりに質素な椅子とテーブルだ。
皇子は俺たちを見ると少し驚いたような表情を見せた。
「なんじゃ。お主も来たのか」
すぐにいつもの調子に戻ると、ソル皇子はオオムカデンダルに言った。
「ああ、ちょっと釘を刺しにな」
オオムカデンダルはそう言ったが、ソル皇子にあまり関心を示さなかった。
部屋の中をキョロキョロと見回している。
「釘を刺すとな?」
「あんまり俺の部下を自分の部下のように呼びつけないでもらおうか。営業妨害だ」
秘密結社が営業妨害とは、なんの冗談か。
「……なるほど。それは誠にあい済まんかった」
ソル皇子はオオムカデンダルに言われて素直に謝った。
使いの者も、俺も、驚いた。
皇子から謝罪を引き出すなんて。
どっちが悪いとかではない。
皇族は謝らないもの。
それが世の常識である。
やはりこの皇子は俺の知っている皇族とは違う。
「……それで、私に用とは」
俺は話を変えるように、ソル皇子に尋ねた。
使いの者も、ホッと安堵の表情を浮かべる。
「実はの、兄上がまた動き出した」
それは……知っている。
「お主たちであろう。西の繁華街を独立させようとしているのは」
俺は言葉に詰まった。
さすがに正面切って問いただされると、言いにくい物がある。
「ああ。そうだ」
一人だけそうじゃない男が居た。
オオムカデンダルは特に興味無さそうに答えた。
「やはりか」
ソル皇子も特に驚かずにそう言った。
「帝国を滅ぼすつもりか?」
「いや、特にそう思っている訳じゃないがね。俺たちの目標は世界征服だからよ、その中に帝国も入っているだけの事だ」
それはつまりそう言う事だろうが。
「そうか……それは困ったのう」
ソル皇子も他人事のように言った。
なんなんだ、この二人の会話は。
俺はともかく使いの男は、表情がこわばりっぱなしだ。
「まあ、それはともかくじゃ。兄上が西の繁華街独立を認める筈がない。お主たちが首謀者だと知ってはなおさらじゃ」
そうだろうな。
「ああ、さっきなんとかって言う将軍が文句を言いに来てたぞ」
バーデン将軍だ。
陳情に来たみたいに言うんじゃない。
名前も覚えてやれ。
「して、どうなった?」
「帰って行ったよ。急用を思い出したらしい」
「お主が相手を?」
「いいや、そこに居るうちの行動隊長が相手をした」
そう言ってオオムカデンダルは、俺をアゴで指した。
オオムカデンダルは建物を見て呟いた。
「どうぞ」
使いの者が扉を開けて中へ招き入れる。
俺たちは意外と長い廊下を歩く。
この奥の部屋にソル皇子は居る筈だ。
使いの者が最後の扉を開けた。
中の部屋にはテーブルがあり、やはりソル皇子が座っていた。
皇子が座るにはあまりに質素な椅子とテーブルだ。
皇子は俺たちを見ると少し驚いたような表情を見せた。
「なんじゃ。お主も来たのか」
すぐにいつもの調子に戻ると、ソル皇子はオオムカデンダルに言った。
「ああ、ちょっと釘を刺しにな」
オオムカデンダルはそう言ったが、ソル皇子にあまり関心を示さなかった。
部屋の中をキョロキョロと見回している。
「釘を刺すとな?」
「あんまり俺の部下を自分の部下のように呼びつけないでもらおうか。営業妨害だ」
秘密結社が営業妨害とは、なんの冗談か。
「……なるほど。それは誠にあい済まんかった」
ソル皇子はオオムカデンダルに言われて素直に謝った。
使いの者も、俺も、驚いた。
皇子から謝罪を引き出すなんて。
どっちが悪いとかではない。
皇族は謝らないもの。
それが世の常識である。
やはりこの皇子は俺の知っている皇族とは違う。
「……それで、私に用とは」
俺は話を変えるように、ソル皇子に尋ねた。
使いの者も、ホッと安堵の表情を浮かべる。
「実はの、兄上がまた動き出した」
それは……知っている。
「お主たちであろう。西の繁華街を独立させようとしているのは」
俺は言葉に詰まった。
さすがに正面切って問いただされると、言いにくい物がある。
「ああ。そうだ」
一人だけそうじゃない男が居た。
オオムカデンダルは特に興味無さそうに答えた。
「やはりか」
ソル皇子も特に驚かずにそう言った。
「帝国を滅ぼすつもりか?」
「いや、特にそう思っている訳じゃないがね。俺たちの目標は世界征服だからよ、その中に帝国も入っているだけの事だ」
それはつまりそう言う事だろうが。
「そうか……それは困ったのう」
ソル皇子も他人事のように言った。
なんなんだ、この二人の会話は。
俺はともかく使いの男は、表情がこわばりっぱなしだ。
「まあ、それはともかくじゃ。兄上が西の繁華街独立を認める筈がない。お主たちが首謀者だと知ってはなおさらじゃ」
そうだろうな。
「ああ、さっきなんとかって言う将軍が文句を言いに来てたぞ」
バーデン将軍だ。
陳情に来たみたいに言うんじゃない。
名前も覚えてやれ。
「して、どうなった?」
「帰って行ったよ。急用を思い出したらしい」
「お主が相手を?」
「いいや、そこに居るうちの行動隊長が相手をした」
そう言ってオオムカデンダルは、俺をアゴで指した。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる