見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
474 / 826

四七四

しおりを挟む
 翌朝。
俺とオレコとカルタス、それにトラゴスの四人で繁華街に向かった。
蜻蛉洲はあとで来ると言っていた。

 俺は早速銀猫の所へ向かう。
銀猫の店は閉まっていたが、訪ねると中へ入れてくれた。

「いやあ参ったよ」

 銀猫が頭を掻いた。

「引き受けたは良いが、あまりに勝手が違いすぎる。今日は両替所のオープンだ。あと畑仕事をしたいヤツに畑仕事自体を教えるんだとよ」

 そりゃあこんな街中で暮らしてたやつらが、いきなり農夫は無理だろう。
だいたい畑はどうするつもりなんだ。

「畑は何とかすると言っていたぞ」

 銀猫が肩をすくめる。
本当かよとも思うが、たぶん何とかしてしまうのだろう。

「夕べ蜻蛉洲は漁業もそのうちするとか何とか言ってたぞ」

 俺が夕べの秋津洲の言葉を伝えると、銀猫は目を丸くして俺を見た。

「言わなくていい。お前の気持ちは俺も判る」

 俺は銀猫の言葉を遮ってそう言った。
街中で漁業?
まったく訳が判らない。

「……海まで作ってしまうのか?」

 言わなくて良いと言ったのに、言わずにはおれんか。

「俺も同じことを言ったが、阿保と言われた。作るのは魚なんだそうだ」

 そっちは阿保じゃないのか。
俺は思い出してため息をついた。

「農夫のための農業学校を設立すると言っていたぞ。その他の業種も同様だそうだ」

 カルタスが口を挟む。
紡績から服飾まで学校を作るのか。
いったい、いつ働くんだ?

「学びながら働くんだそうだ。しかも金も出るんだと」

「働きながら?それで金までもらえるのか?」

 銀猫が驚く。

「ジョルターで支払うらしいがね」

 カルタスも肩をすくめた。
全員の頭の中は、クエスチョンマークだらけだった。

「ジョルターねえ。上手くいくのか?」

 銀猫が言った。

「蜻蛉洲様は大変な自信がお有りのご様子だったわよ」

 オレコが答える。
まあ、自信はあるのだろう。
と言うか、彼らは自信しかない。
そんな奴らだ。

「ジョルターを渡して金貨と両替できるようにするらしい」

「へえ。レートは?」

 銀猫が俺を見る。

「それはまだ判らんが、かなり高レートだと思う。金貨を稼ぐよりもジョルターを稼ぐ方が簡単だからな。金貨欲しさに皆ジョルターを欲しがるようになる」

「なるほどねえ。だがそんなに上手くいくのか?」

 そう、問題はそこだけだ。
だが俺はなんとなく上手くいくんだろうと思っていた。
理由は特に無いが、彼らならやるんだろうと思う。

「た、たた大変です!」

 そこへウェイトレスの女が転がるように部屋に入って来た。
銀猫の配下がこんなに慌てるなんて珍しいな。

「落ち着け。どうした?」

 ウェイトレスの女はもつれる口で、必死にまくし立てた。

「て、てて帝国の兵隊がこっちに来ます。すごい数です!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...