見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四五四

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 俺は愕然とした。
だったら何の為に銀猫を手に掛けたのか。
何の為に民家を破壊し、人々を巻き込んだのか。
ヴァンパイアはこの世から消せないと言うのか。

 俺は頭の中が真っ白になっていた。

「……とか何とか思ってるんだろ。判りやすいよな、ウチの行動隊長は」

 オオムカデンダルがつまらなさそうに言う。

「あら良いじゃない。私はそう言う真面目な男、嫌いじゃないけど」

 今度は令子が冷やかすように言った。

「話は最後まで聞け。人の話を良く聞かなかったせいで命を落としたヤツも多い」

 蜻蛉洲が冷静な口調で言った。

「復活したのは形だけだ。顔の形をした皮膚と言えば良いのか」

 蜻蛉洲自身、どう形容して良いのか判らないと言った雰囲気だ。

「見た方が早い」

 銀猫はそう言うと、やおら諸肌を脱いだ。
相変わらず気っ風が良い。

「ほら見てみろ」

 銀猫はそう言うが、なかなか直視しにくい。

「何を恥ずかしがっている。見れば一目瞭然だろ」

 銀猫があまりにも堂々としているので、恥ずかしがっている事自体が悪いような気になる。
不思議なもんだ。

 俺は意を決して銀猫を見た。

「これは……」

 俺は思わず声を漏らした。
確かに銀猫の左胸に人の顔のような物がある。
だが、ハッキリと顔があると言えないのにも理由があった。

 まず、小さい。
子供の物よりももっと小さい。
赤子くらいの大きさだ。
しかし、その造りは明らかに成人男性の形をしている。
それが逆に不気味さを増していた。

 そして、両目と鼻筋しか無い。
眉も口も無く、鼻も鼻筋はあるものの、鼻頭は無い。
したがって鼻の穴も無かった。

 なんなんだこれは。

「推察するに、ヴァンパイアの影響が強すぎるんだろう。もう本体は居ないにも関わらずその痕跡だけは残している。しかも、ホンのわずかな時間しかこの格好では居なかったのにだ。恐るべき生命力だ」

 蜻蛉洲が冷静な口調で言うのと裏腹に、興味深そうに銀猫の胸を凝視した。
あんまり見るなよ。

「だが、さっきも言ったように今ところ形だけだ。意思も無さそうだし目も開かない。透過して調べたが脳も無いから本当に形だけだ。恐らくな」

 恐らくって、可能性はゼロでは無いのか。

「こんな魔法だモンスターだなんて言う世界の常識は、流石に我々の予想の外側だからな。絶対とは言えない。だが、恐らく大丈夫な筈だ」

 何だか蜻蛉洲が断言しないと逆に不安になるが、まあ今はそれで良しとしよう。

「そして、甦ってもらった二つ目の理由は」

 もらった?
あの蜻蛉洲がもらったと言ったのか。
何を企んでいる。

「銀猫にスラム地区を含むあの一帯を仕切ってもらう」

 なんだと。
どう言う事だ。

「お前では任せられないとさ」

 銀猫はそう言って笑った。
冗談言ってる場合か。
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