見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
416 / 826

四一六

しおりを挟む
 キロの姉は宝箱に近付くと、しゃがみこんでゆっくりと宝箱を開ける。
中には色々な物が詰め込まれていた。

「ほお、これは」

 黒猫が目を大きく見開いて、興味深げに中を覗きこむ。
金貨が無造作に七枚、銀貨も同じく十一枚、それから羊皮袋が五つ。
それとは別の羊皮袋にも貴金属類がまとめて入っていた。
宝石類も一緒だ。
指輪やネックレスがたくさん詰められていた。

「この袋には何が入っているんだ?」

 黒猫が尋ねた。

「それは銅貨だ。百枚づつ入ってる。量が多くて困ってるんだ。銀貨一枚に両替するのに、銅貨千枚必要だからな。不便なことこの上ねえよ」

 キロの姉がぶっきらぼうに答えた。
それは確かにそうなんだが、一般市民はほとんど銅貨だけで生活している。
金貨はおろか、銀貨さえ見たこと無いと言う人間も少なくない。
それだけ庶民の生活は質素で、物価も高くは無いと言う事でもあるが。

「まあ、多くの市民が銅貨以外に馴染みの無い暮らしをしている以上、それは仕方がないな」

 黒猫はさも当然と答えた。
俺は驚いた。
いつの間にそんな事まで常識としているのか。
やはりただの変人では無かった。

「お前、なめんなよ。世界征服を目論む者が、世間知らずでどうするつもりだ。お前こそもっと勉強しろ」

 黒猫が俺を叱責する。
まさかこの歳になって、勉強しろなどと言われる日が来ようとは。

「……お前、この猫の何なの?」

 キロの姉が、俺を可哀想な者を見る目で見た。
その目はよせ。

 宝箱の中身は、他には衣類が入っていた。
結構良い服だ。
金持ちを中心に襲っていた事が良く判る。
後は小物か。
小さな鞄のような物がいくつかあった。
それから何だか良く判らない物もあった。

「これはなんだ?」

 俺は小さな金属片を指差した。

「判らん。ただ珍しい金属だから拝借しただけだ」

 なんだ。
そんな物まで収集の対象なのか。
こりゃ、本当にただのガラクタも混じってるな。

「おい、ちょっと待て。そのネックレス見せてみろ」

 黒猫が突然、何かに興味を示した。

「なんだ?これか?」

「いや、違う。ちょっと待て、どれだよ?」

 黒猫の質問が支離滅裂になっている。
何を言っているのだ。

「いや、爺さんがその隣の赤い宝石のはめ込まれているヤツだと言っている」

 爺さん?
なるほど、側にサルバスが居るのか。

「これの事か?」

「そう!それじゃ!」

 黒猫の声はついに老人の声に変わった。
サルバスが直接しゃべっている事が判る。

「と、年寄りの声!?」

 キロの姉が驚いて黒猫を見る。

「そんな事はどうでもええわい。そのネックレス見せてみろ」

 黒猫に言われてキロの姉は、そのネックレスを黒猫の前にぶら下げた。

「……これは」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
剣と魔法の世界にて。余命宣告を受けたリインは、幼馴染に突き放され、仲間には裏切られて自暴自棄になりかけていたが、心優しい老婆と不思議な男に出会い、自らの余命と向き合う。リインの幼馴染はリインの病を治すために、己の全てを駆使して異世界の記憶を持つものたちを集めていた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

ある王妃の末路

どら焼き
ホラー
要望が多かったホラーの試作品です。怖くないかもしれません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子
恋愛
アリックス・リードは二十三歳になる子爵令嬢。若い頃、婚約に失敗して行き遅れになった彼女は、王妃付きの女官をしていた。結婚願望ゼロの彼女にとある人物との結婚話が舞い込む。そのお相手とは、社交界きっての貴公子であるオエル・ブリトニー伯爵。両親を早くに亡くし、爵位を若くして継いだ彼は、超有望物件。ただし遊び人として有名だった。だからと言う訳ではないが伯爵は未だに独身。結婚する気配すらなかった。それもそのはず、伯爵本人が結婚する気が全くないのだから。 そんな伯爵との結婚に疑問を感じるアリックス。実はこの結婚は彼女の兄が持ってきたもの。実は、兄と伯爵は学友。色々な思惑アリの結婚話。一見、アリックスには全くメリットのない結婚と思われた。だが、彼女はこの結婚を承諾する。契約結婚として・・・。 何故、彼女は契約結婚を承諾したのか?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...