見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四一四

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 キロの姉は驚いたが、俺たちだって驚いた。
金貨五十枚だと。
いくら組織が出すと言ってもスラム住まいの浮浪者に金貨五十枚とは破格すぎる。
一般的な平民で、銀貨六枚がだいたいの平均年収だろう。
二年でようやく金貨一枚と銀貨二枚。
二十年でやっと金貨十二枚。
金貨五十枚が如何に馬鹿げた金額か判るだろう。
宿が半壊して建て直すのに、俺が金貨を何枚渡したか。
その倍どころの話では無い。

「どうだ?不足か?」

 黒猫がキロの姉の顔をじっと見つめた。

「……は、ハッ!そんな口だけの約束を誰が信じるんだよ!」

 キロの姉は動揺しながらも黒猫の話を突っぱねる。

「それもお前の言う通りだ。だから……」

 そう言いながら黒猫は、窓の外から何やら袋を引っ張り出すと部屋の中へと放り込んだ。

 どさっ!

 かなり大きな羊皮袋だ。
音からして重たそうな事は想像できるが、まさか。

「開けてみろ」

 黒猫はキロの姉に言った。
姉が怪訝そうに袋を拾う。
そして恐る恐る中を覗きこんだ。

「!?」

 そしてその表情がこわばる。

「ちゃんと五十枚入ってるぞ。確認してみるがいい」

 まさか本当に金貨五十枚なのか。
かなりの重さの筈だ。
猫に運ばせたと言うのか。
いや、驚く所はそこでは無いが。

「言っとくが、ただの猫では無いぞ」

 俺の心を見透かしたように、黒猫がそう言って笑う。
そりゃそうなんだろうが。

「……確かに五十枚ある」

 キロの姉がそう呟いた。
だが、それでどうすりゃ良いのかと明らかに困惑している。

「金貨五十枚あれば、お前だけでなく仲間も一緒にスラムから出られるだろ。その後どうするかどうなるかは俺たちの知った事ではないがね」

 黒猫はそう言いながら、相変わらず前足で顔をこすった。

「さあ、どうする?宝箱の中身を見せてくれ」

 キロの姉が黒猫を見た。

「……どうして宝箱の事を知っている?」

「そりゃ周りがあれだけお前を追いかけ回してれば、その理由くらいは調べるさ」

「……じゃあ中身を知ってどうする?」

「さあ。まだ決めてない」

「決めてないだと?」

「中身が何かもまだ知らないのに、どうするも無いだろ。見てから考える」

「知らない物なら無いのと同じだ!特に目的もないのに必要ないだろ!」

 キロの姉が気色ばむ。
まったくの正論だ。

「俺たちは好奇心旺盛なんだよ。好奇心を食って生きてるようなもんだ。知りたいじゃないか、みんなが何を必死に追い求めているのかを」

 出た。
ただの興味本位だ。
オオムカデンダルたちの言う、科学者は好奇心旺盛なのだと言うあの理屈だ。
そんな興味本位に金貨五十枚とは。
俺には彼らの価値基準が判らない。
ハッキリ言ってイカれている。
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