見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
412 / 826

四一二

しおりを挟む
 カルタスの肩や膝の上にはナノとピコが、小動物のようによじ登っている。
まるで動物が集まる森の大木だ。

 ナノとピコはキロの姉を見ても、特に何の反応も示さない。
年齢から察するにキロの姉が出ていった時、おそらくナノとピコはまだ乳児だ。
覚えていないのだろう。

「お姉ちゃん!」

「知らんと言っている!くどいぞ!」

 キロの姉はキロに対して背中を向けた。
こりゃ、徹底してるな。

「お前、名前は?」

 俺はキロの姉に尋ねた。

「なんでテメエなんかに答えなきゃならねえんだよ」

 取りつく島もない。
やれやれ、どうしたもんか。

「だってお姉ちゃんって呼ばれて、女性である事自体は否定しないんですもの。まずこの時点で男である事は嘘だって判るわ」

 オレコが言った。
本当だ。
確かに『俺は男だ!』と訂正しなかったな。

「お、俺は男だ!」

「遅いわよ」

 オレコは全く相手にしていない。

「女である事を隠している理由は何かしら?アナタの仲間も知らないわよねえ?」

 キロの姉は黙って何も言わない。
今度は黙秘かよ。

「王国に良い仕事がある。そう言って家を出たんでしょ?それが男として帝国のスラムに居る……アナタ、騙されたんでしょ?」

 キロの姉がビクッと体を震わせた。

「騙された?誰に?」

 カルタスが首をかしげる。

「そこまでは知らないわよ。でも王国にも帝国にも、それこそ大きな国には必ず人買いが居るものよ。あの手この手で人を集めて勝手に他人に売り飛ばす。そしてその人間とは何の関係もないくせに、その金を自分の物にする酷い奴らが居るのよ」

 人買いか。
奴隷商とも言う。

「なあ、名前。教えてくれよ」

 俺はキロの姉の前に腰を落とした。
キロの姉の顔を覗きこむ。
無表情だが泣いているように見えるのは、俺の勝手な思い込みか。

「その人買い連中、俺が成敗してやる。他の奴らも俺が解放してやる。だから本当の事を言ってくれ。キロを見てみろ。彼女もお前に負けず劣らず苦労してきたんだ。お前よりも年下だぞ」

 俺がそう言うとキロの姉はゆっくりと振り返った。

「お姉ちゃん……」

 そう呼ぶキロの顔を姉は黙って見つめた。

「……苦労したの?」

 姉は静かに問いかけた。

「ううん。お姉ちゃんに比べたら大したことないよ」

 キロはいつものように明るい笑顔で答えた。
この子は本当に強いな。
俺はたまらなくなった。

「心配するな。キロは俺が守る。弟たちも、そしてお前もだ」

 キロの姉がうつむく。

「……俺も?」

「ああ、お前もだ」

 キロの姉が俺の方を向いた。

「……そんな事、出来る訳ねえだろ!この世間知らず!」

 あれ?感動のシーンじゃないのか? 
俺は固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...