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四一二
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カルタスの肩や膝の上にはナノとピコが、小動物のようによじ登っている。
まるで動物が集まる森の大木だ。
ナノとピコはキロの姉を見ても、特に何の反応も示さない。
年齢から察するにキロの姉が出ていった時、おそらくナノとピコはまだ乳児だ。
覚えていないのだろう。
「お姉ちゃん!」
「知らんと言っている!くどいぞ!」
キロの姉はキロに対して背中を向けた。
こりゃ、徹底してるな。
「お前、名前は?」
俺はキロの姉に尋ねた。
「なんでテメエなんかに答えなきゃならねえんだよ」
取りつく島もない。
やれやれ、どうしたもんか。
「だってお姉ちゃんって呼ばれて、女性である事自体は否定しないんですもの。まずこの時点で男である事は嘘だって判るわ」
オレコが言った。
本当だ。
確かに『俺は男だ!』と訂正しなかったな。
「お、俺は男だ!」
「遅いわよ」
オレコは全く相手にしていない。
「女である事を隠している理由は何かしら?アナタの仲間も知らないわよねえ?」
キロの姉は黙って何も言わない。
今度は黙秘かよ。
「王国に良い仕事がある。そう言って家を出たんでしょ?それが男として帝国のスラムに居る……アナタ、騙されたんでしょ?」
キロの姉がビクッと体を震わせた。
「騙された?誰に?」
カルタスが首をかしげる。
「そこまでは知らないわよ。でも王国にも帝国にも、それこそ大きな国には必ず人買いが居るものよ。あの手この手で人を集めて勝手に他人に売り飛ばす。そしてその人間とは何の関係もないくせに、その金を自分の物にする酷い奴らが居るのよ」
人買いか。
奴隷商とも言う。
「なあ、名前。教えてくれよ」
俺はキロの姉の前に腰を落とした。
キロの姉の顔を覗きこむ。
無表情だが泣いているように見えるのは、俺の勝手な思い込みか。
「その人買い連中、俺が成敗してやる。他の奴らも俺が解放してやる。だから本当の事を言ってくれ。キロを見てみろ。彼女もお前に負けず劣らず苦労してきたんだ。お前よりも年下だぞ」
俺がそう言うとキロの姉はゆっくりと振り返った。
「お姉ちゃん……」
そう呼ぶキロの顔を姉は黙って見つめた。
「……苦労したの?」
姉は静かに問いかけた。
「ううん。お姉ちゃんに比べたら大したことないよ」
キロはいつものように明るい笑顔で答えた。
この子は本当に強いな。
俺はたまらなくなった。
「心配するな。キロは俺が守る。弟たちも、そしてお前もだ」
キロの姉がうつむく。
「……俺も?」
「ああ、お前もだ」
キロの姉が俺の方を向いた。
「……そんな事、出来る訳ねえだろ!この世間知らず!」
あれ?感動のシーンじゃないのか?
俺は固まった。
まるで動物が集まる森の大木だ。
ナノとピコはキロの姉を見ても、特に何の反応も示さない。
年齢から察するにキロの姉が出ていった時、おそらくナノとピコはまだ乳児だ。
覚えていないのだろう。
「お姉ちゃん!」
「知らんと言っている!くどいぞ!」
キロの姉はキロに対して背中を向けた。
こりゃ、徹底してるな。
「お前、名前は?」
俺はキロの姉に尋ねた。
「なんでテメエなんかに答えなきゃならねえんだよ」
取りつく島もない。
やれやれ、どうしたもんか。
「だってお姉ちゃんって呼ばれて、女性である事自体は否定しないんですもの。まずこの時点で男である事は嘘だって判るわ」
オレコが言った。
本当だ。
確かに『俺は男だ!』と訂正しなかったな。
「お、俺は男だ!」
「遅いわよ」
オレコは全く相手にしていない。
「女である事を隠している理由は何かしら?アナタの仲間も知らないわよねえ?」
キロの姉は黙って何も言わない。
今度は黙秘かよ。
「王国に良い仕事がある。そう言って家を出たんでしょ?それが男として帝国のスラムに居る……アナタ、騙されたんでしょ?」
キロの姉がビクッと体を震わせた。
「騙された?誰に?」
カルタスが首をかしげる。
「そこまでは知らないわよ。でも王国にも帝国にも、それこそ大きな国には必ず人買いが居るものよ。あの手この手で人を集めて勝手に他人に売り飛ばす。そしてその人間とは何の関係もないくせに、その金を自分の物にする酷い奴らが居るのよ」
人買いか。
奴隷商とも言う。
「なあ、名前。教えてくれよ」
俺はキロの姉の前に腰を落とした。
キロの姉の顔を覗きこむ。
無表情だが泣いているように見えるのは、俺の勝手な思い込みか。
「その人買い連中、俺が成敗してやる。他の奴らも俺が解放してやる。だから本当の事を言ってくれ。キロを見てみろ。彼女もお前に負けず劣らず苦労してきたんだ。お前よりも年下だぞ」
俺がそう言うとキロの姉はゆっくりと振り返った。
「お姉ちゃん……」
そう呼ぶキロの顔を姉は黙って見つめた。
「……苦労したの?」
姉は静かに問いかけた。
「ううん。お姉ちゃんに比べたら大したことないよ」
キロはいつものように明るい笑顔で答えた。
この子は本当に強いな。
俺はたまらなくなった。
「心配するな。キロは俺が守る。弟たちも、そしてお前もだ」
キロの姉がうつむく。
「……俺も?」
「ああ、お前もだ」
キロの姉が俺の方を向いた。
「……そんな事、出来る訳ねえだろ!この世間知らず!」
あれ?感動のシーンじゃないのか?
俺は固まった。
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