見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三九三

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 通りを歩く人の身なりも、如何にも品の良さそうな格好をしている。
同じ地続きとは思えない程に、世界が全く違っていた。

 貧富の差。
ただ今日を生きると言うだけで死ぬような目に会う子供たちが居る一方で、ここには一生安泰で、今日と言う日を如何に退屈せずに生きるかと言うような人間が居る。

 冒険者として金と名誉と、そして刺激を求めて旅に出る毎日を送っていた自分にとっては、ここは天国とは言い難かった。

 綺麗な見た目とは裏腹に、人間は欲望と怠惰に飲まれている。
俺にはそんな風に見える。

 男は目立たないようにか、裏道をただひたすらに進んだ。
けっして表通りを歩こうとはしない。
狭い路地を足早に行く。
そうして一軒の屋敷へと辿り着いた。

 男は辺りを気にしながら屋敷へと素早く入っていく。
尾行を気にしているのか。
自分との繋がりを知られたくないと言う訳だ。
俺は透明になっている事を良い事に、堂々と後をつけて中へ入った。

 この辺りの屋敷と比べても、明らかに立派な建物だ。
いったい、どんな奴が住んでいるのか。
男は入り口の前でノックをした。
ややあって、ドアが開く。
中から召し使い風の男が現れ、中へと招き入れた。
そして、ドアはすぐに閉じられた。

「別から侵入するしかなさそうだな」

 俺は建物を見上げ、目ぼしい窓を探した。
侵入者を警戒なんてした事が無いのか。
どこも無防備で、入りやすい事この上ない。
だったら遠慮なく入らせてもらう。
俺は適当なバルコニーに飛び上がると、そこから屋根へと登っていった。

 上から辺りを見渡す。
大体の立地と屋敷の形を確認する。
大層に中庭まで在りやがる。
噴水に泉も造ってあるとは、相当な金持ちだな。
何名かの女が泉に腰掛け、足を水の中へと入れていた。

 キナ臭さとは全くの無縁に思える。
あの男がこんな所に繋がりがあるとは、誰も想像しないだろう。

 俺は聴覚を最大にした。

「……失敗しただと?」

「申し訳ねえ。とんでもなく強え男が現れて、とても歯が立たねえ」

 あの男の声だ。
俺は声の方向へと、屋根伝いに移動する。
この辺りか。
俺は手首から触手を伸ばし、屋根からぶら下がって部屋の中をうかがった。

 あの男が居る。
その前には見覚えのある男が椅子にふんぞり返っていた。

 マイヤード。

 最初にバッケスの店で出会った裏社会のボスだ。
アイツこんな所に住んでいたのか。
俺は呆気にとられた。
全くイメージが違う。
裏社会の一番力を持つと言われる組織、そのボスがこんな富裕層地域に居を構える成金だったとは。

「……で、ソイツにやられておめおめ帰ってきたと?」
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