393 / 826
三九三
しおりを挟む
通りを歩く人の身なりも、如何にも品の良さそうな格好をしている。
同じ地続きとは思えない程に、世界が全く違っていた。
貧富の差。
ただ今日を生きると言うだけで死ぬような目に会う子供たちが居る一方で、ここには一生安泰で、今日と言う日を如何に退屈せずに生きるかと言うような人間が居る。
冒険者として金と名誉と、そして刺激を求めて旅に出る毎日を送っていた自分にとっては、ここは天国とは言い難かった。
綺麗な見た目とは裏腹に、人間は欲望と怠惰に飲まれている。
俺にはそんな風に見える。
男は目立たないようにか、裏道をただひたすらに進んだ。
けっして表通りを歩こうとはしない。
狭い路地を足早に行く。
そうして一軒の屋敷へと辿り着いた。
男は辺りを気にしながら屋敷へと素早く入っていく。
尾行を気にしているのか。
自分との繋がりを知られたくないと言う訳だ。
俺は透明になっている事を良い事に、堂々と後をつけて中へ入った。
この辺りの屋敷と比べても、明らかに立派な建物だ。
いったい、どんな奴が住んでいるのか。
男は入り口の前でノックをした。
ややあって、ドアが開く。
中から召し使い風の男が現れ、中へと招き入れた。
そして、ドアはすぐに閉じられた。
「別から侵入するしかなさそうだな」
俺は建物を見上げ、目ぼしい窓を探した。
侵入者を警戒なんてした事が無いのか。
どこも無防備で、入りやすい事この上ない。
だったら遠慮なく入らせてもらう。
俺は適当なバルコニーに飛び上がると、そこから屋根へと登っていった。
上から辺りを見渡す。
大体の立地と屋敷の形を確認する。
大層に中庭まで在りやがる。
噴水に泉も造ってあるとは、相当な金持ちだな。
何名かの女が泉に腰掛け、足を水の中へと入れていた。
キナ臭さとは全くの無縁に思える。
あの男がこんな所に繋がりがあるとは、誰も想像しないだろう。
俺は聴覚を最大にした。
「……失敗しただと?」
「申し訳ねえ。とんでもなく強え男が現れて、とても歯が立たねえ」
あの男の声だ。
俺は声の方向へと、屋根伝いに移動する。
この辺りか。
俺は手首から触手を伸ばし、屋根からぶら下がって部屋の中をうかがった。
あの男が居る。
その前には見覚えのある男が椅子にふんぞり返っていた。
マイヤード。
最初にバッケスの店で出会った裏社会のボスだ。
アイツこんな所に住んでいたのか。
俺は呆気にとられた。
全くイメージが違う。
裏社会の一番力を持つと言われる組織、そのボスがこんな富裕層地域に居を構える成金だったとは。
「……で、ソイツにやられておめおめ帰ってきたと?」
同じ地続きとは思えない程に、世界が全く違っていた。
貧富の差。
ただ今日を生きると言うだけで死ぬような目に会う子供たちが居る一方で、ここには一生安泰で、今日と言う日を如何に退屈せずに生きるかと言うような人間が居る。
冒険者として金と名誉と、そして刺激を求めて旅に出る毎日を送っていた自分にとっては、ここは天国とは言い難かった。
綺麗な見た目とは裏腹に、人間は欲望と怠惰に飲まれている。
俺にはそんな風に見える。
男は目立たないようにか、裏道をただひたすらに進んだ。
けっして表通りを歩こうとはしない。
狭い路地を足早に行く。
そうして一軒の屋敷へと辿り着いた。
男は辺りを気にしながら屋敷へと素早く入っていく。
尾行を気にしているのか。
自分との繋がりを知られたくないと言う訳だ。
俺は透明になっている事を良い事に、堂々と後をつけて中へ入った。
この辺りの屋敷と比べても、明らかに立派な建物だ。
いったい、どんな奴が住んでいるのか。
男は入り口の前でノックをした。
ややあって、ドアが開く。
中から召し使い風の男が現れ、中へと招き入れた。
そして、ドアはすぐに閉じられた。
「別から侵入するしかなさそうだな」
俺は建物を見上げ、目ぼしい窓を探した。
侵入者を警戒なんてした事が無いのか。
どこも無防備で、入りやすい事この上ない。
だったら遠慮なく入らせてもらう。
俺は適当なバルコニーに飛び上がると、そこから屋根へと登っていった。
上から辺りを見渡す。
大体の立地と屋敷の形を確認する。
大層に中庭まで在りやがる。
噴水に泉も造ってあるとは、相当な金持ちだな。
何名かの女が泉に腰掛け、足を水の中へと入れていた。
キナ臭さとは全くの無縁に思える。
あの男がこんな所に繋がりがあるとは、誰も想像しないだろう。
俺は聴覚を最大にした。
「……失敗しただと?」
「申し訳ねえ。とんでもなく強え男が現れて、とても歯が立たねえ」
あの男の声だ。
俺は声の方向へと、屋根伝いに移動する。
この辺りか。
俺は手首から触手を伸ばし、屋根からぶら下がって部屋の中をうかがった。
あの男が居る。
その前には見覚えのある男が椅子にふんぞり返っていた。
マイヤード。
最初にバッケスの店で出会った裏社会のボスだ。
アイツこんな所に住んでいたのか。
俺は呆気にとられた。
全くイメージが違う。
裏社会の一番力を持つと言われる組織、そのボスがこんな富裕層地域に居を構える成金だったとは。
「……で、ソイツにやられておめおめ帰ってきたと?」
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる