見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三五四

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「テメエ……なめてんのか、それともただの世間知らずか?俺を誰だか知らねえとはな。もう謝っても遅いぜ、お前はスマキにして半殺しの後にドブ川に流してやるからよ」

 男の額に深いシワが刻み込まれた。

「アンタの事なんて知らん。自分が有名人だと思い込むのは、みっともないぜ」

 俺は男を見据えたまま立ち上がった。

「困りますよ、お客さん」

 男の声がした。
見ると通路をこちらへ向かって歩いてくる男がいる。
店の責任者か。
見たところ三十手前かそこらだろう。
きちっとした身なりをしていた。

「なんの騒ぎですか?」

 男が尋ねた。

「この愚図がまた粗相をやらかしたんです!それにマイヤードさんにまで迷惑を掛けて」

 さっきの女が男に言い付けた。

「これはマイヤード様。うちの者がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。今日の分は結構ですのでどうかご容赦下さい」

 そう言って男はマイヤードと呼ばれた親父に頭を下げた。

「おう。そう言ってくれるのは有りがたいが、この若造が俺に文句があるらしくてよ。店には関係無いが、ちっとばかり散らかしちまうかもしれねえな」

 マイヤードはそう言うとニヤリと笑った。

「左様ですか。それは仕方がありませんね。判りました、我々は何も見ておりませんので手短にお願い致します」

 男もそう言うと、くるりと背を向けて立ち去ってしまった。
ただの常連客と言うわけでは無さそうだ。
太客なのか、この辺りの顔なのか。
どちらにせよこれは渡りに舟かもしれない。
『蛇の道は蛇』とはよく言ったもんだ。
ここから手掛かりが得られるかもしれない。

「なんだ。お前が散らかしても俺は片付けないぞ」

「口の減らねえ若造だな。この辺の人間じゃねえんだろ。どこの田舎者だ?」

 マイヤードが馬鹿にしたように言った。

「ミスリル銀山に住んでいる。今度遊びに来いよ、お茶くらい出してやる」

 俺はそう言ってニヤリと笑った。

「山頂まで来られたらな」

「ミスリル銀山にい?ホラばっかり吹いてるんじゃねえ!ハッタリでは俺を退かせられんぞ!」

 マイヤードが指をパチンと鳴らす。
突然、辺りの客の中から数名が立ち上がった。
仲間か?

「おい、お前ら。この若造にこの町のルールを教えてやれ!」

 悪党にピッタリの啖呵だ。
思わずうっとりしそうな程の定番セリフだった。

 たちまち男たちが、わあっ!と詰め寄る。
俺は背後の少女を守るため、一歩も動かず迎え撃った。

「くたばれえっ!」

 男が手に酒瓶を持って殴りかかる。
それより早く顔面を殴打する。
ただそれだけの簡単な作業だ。
避ける意味すらない。
間合いに入った奴から順番に殴り付ければ良いだけだった。
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