見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三五三

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 俺は言われた通りに席に座った。
薄暗い店内を見渡すと、それぞれの席に男性客が居て、そこに女が付いている。
時折客と女が連れだって店を出ていくのも見える。
女が男性客を接待する酒場だ。
良くある店と言えば、良くある店だった。

 だが、こんな子供を従事させるのは良くある事ではない。
全くないとは言わないが、だいたいは悪質な店と言って良いだろう。
小間使ならまだしも、客を取らせるとは普通ではない。
だから看板を掛けられないのだ。

 しばらくするとさっきの女が小走りに戻ってきた。
手にグラスと酒の乗ったトレーを持っている。
明らかに嫌な予感がした。

「きゃっ!」

 案の定、俺の見ている前で女は盛大に蹴っつまずいた。

 バシャーンッ!

 俺はとっさに彼女を受け止めたが、トレーの方は床にぶちまけられた。
当然グラスは割れ、酒は飛び散っている。

「ちょっと!なにするのよ!」

 若い女の怒声が飛ぶ。
店の女が立ち上がる。

「おいおい、頼むぜ。靴までグショグショじゃねえか」

 男の声で愚痴が聞こえた。
これは客だ。

「またアンタなの!?ホント使えないわね!」

 女が彼女の頭を叩いた。

 ばしっ!

「いたい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 彼女が俺の腕に抱えられたまま、頭を押さえて謝った。

「もう良いだろ。わざとじゃ無いんだ。許してやれ」

 俺は女に言った。

「お客さん。この子はね、こんなの初めてじゃないんですよ!何べん言っても判りゃしないんだから。この愚図!」

 女がもう一度平手を振り上げた。

「やめておけと言っている」

 俺は女を睨み付けた。

「……ちっ!早く片付けなさい!」

 女は舌打ちすると席へと座った。

「おい兄ちゃん、俺の靴はどうしてくれるんだ?お前が代わりに新しい物を新調してくれるのかい?」

 収まったかと思ったら客の方が出てきた。

「……靴ぐらいすぐ乾くだろ。大の男がそのくらいで騒ぐな」

 俺は女を後ろにかばうと下から男を見上げた。
ただのスケベ親父かと思ったが、目付きや態度が堅気には見えない。
ゴロツキかチンピラか。
どちらにしても雑魚には違いない。

「ああ、そうかい。じゃあお前が乾かしてくれよ。綺麗に舌で舐めてよぉ」

 そう言うと男は下品に笑った。

「放っておけば乾く。大人しく座ってろ」

 俺の言葉に男の表情が変わる。

「兄ちゃん、口の聞き方に気を付けなよ?俺はただの気の良い親父じゃないんだぜ?」

「俺はアンタを気の良い親父だなんて思っていない。ただのスケベ親父だと思ったんだが違うのかい?」

 その瞬間、辺りはしんと静まり返った。
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