見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二八九

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「な、何をするんだ!」

 マザが魔導士に怒鳴った。
それをメルドルムが片手で制止する。

「……お陰で抜けられたんだ。言うな」

 そう言われてマザは怒りを引っ込めた。
だが納得はしていないようだ。
まだ魔導士を睨み付けている。

 これで全員揃ってしまった。
魔導士二、将軍二、部隊長六。
合わせて十だ。

 こちらは三人、いや四人か。
トラゴスを守りながらだと実質二人半だ。

「やっと本番ね」

「へん!肩慣らしは充分だ!」

 オレコとカルタスが鼻を鳴らす。

「俺がメインで戦う。お前たちはフォローとトラゴスの子守りを頼む」

 俺はそう言って前へ出た。

「おいおい、何を言ってやがる。俺たちを雑魚扱いするんじゃねえよ」

 カルタスが俺の肩を掴んだ。

「……荷が重いぞ。無理をするな」

「冗談じゃねえ。お前は俺たちを舐めすぎだ」

 カルタスはどうあっても下がるつもりは無いようだ。
横を見るとどうやらオレコも同意見のようである。
俺はトラゴスを振り返った。
トラゴスはいつものように両手を前で組んだまま、ニコニコと微笑んでいる。

「大丈夫です。どうぞお気になさらずに」

 トラゴスまでもがやる気なのか。
仕方がない。
先に大暴れして、なるべくみんなの負担を軽くしてやるしかない。
最初から出し惜しみ無しで、とばしていく事にしよう。

 ざっ!

 俺は何の前触れもなく突然駆け出した。
開始の合図など戦いにはない。
わざわざ攻撃を知らせる必要など無いのだ。

「ふん。不意打ちかい?」

 マザが少しも遅れずに反応する。
さすがは将軍、戦いに関しては全て心得ている。

 シュボッ!

 空気が破裂するような風切り音。
マザが剣を振るう時、この独特な風切り音がする。
剣が音よりも速く動いている音だ。
これは音を聞いてから反応しては遅いと言う事を意味している。
ただ事では無い。

 俺は紙一重でマザの剣をかわす。
さっきは苦し紛れに腕で受けたが、出来ることならそんな真似はしたくない。
オオムカデンダルやウロコフネタマイトと違って、俺の腕には装甲らしい装甲は無い。
これはたぶん、俺がクラゲやプランクトンとか言う微生物をモチーフとしているからだ。

 それでも人間と比べれば相当に頑丈な肉体だが、将軍の攻撃は人間離れしすぎている。
安易に腕で受け止めるのは余程の事がない限り、止めた方が良いだろう。

 マザの音速突きをかわして低空でタックルを試みる。

「おっと!」

 それを察したマザも、これをギリギリでかわした。

「同じ手は食わないよ」

 ちっ、よく見ている。
もう学習したのか。
その間にも、横からメルドルムの剣が振り下ろされる。
俺は地面を転がってこれもかわす。
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