見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二七九

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 俺が下男かよ。
用があるのは俺なんだが。
まあ、文句を言っていても仕方がない。
とっとと、先を急ごう。

 俺は後ろへ周り荷車を押した。
積んである荷物は本物だ。
本当に納入もするのか。
そんな事を考えながら再び城へと向かった。

 城の周りには堀がある。
場内には跳ね橋を渡してもらい、そこを通って入城するしかない。
俺ならひとっ飛びなんだが、今は言っても始まらない。
大人しく業者を装い入城する。

「止まれ」

 衛兵がカルタスを制止した。

「へい、なんでやしょ?」

「積み荷の確認だ。屋号は?」

「え?」

「屋号だよ」

「ああ、えーっと……」

 店の名前を知らないのか。
看板をちゃんと読まなかったな。

「すいやせん。勤め始めたばっかりなんで、店の名前ど忘れしちまいました」

 俺はずっこけた。
そんな言い訳があるか。

「なに?そんな訳があるか」

 そりゃそうだ。
衛兵があからさまに訝しむ。

「あ、カルネ・ロッソです」

 俺は後ろから顔だけ覗かせて衛兵に言った。

「すんません。そいつ、顔の割りにまだ新入りなんで勘弁してください」

「新入りと顔は関係ねぇだろ!」

 カルタスが怒鳴る。

「はっはっはっはっ、違いない。カルネ・ロッソは精肉店だな。よし、積み荷を見せろ」

「へい」

 俺は荷車の上の木箱を開けた。

「ご覧の通り、晩餐用の子羊肉です」

 子羊かどうかは知らないが適当だ。

「ふむ、陛下は今晩は子羊肉を召し上がるのか。旨そうだな」

 衛兵が喉を鳴らした。

「ええ、今日のはなかなか上物ですよ」

「そうか、ではそっちの寸胴鍋はなんだ?」

 そう来るよな。
俺は困った。
だが開ける訳にはいかない。
中にはそれぞれ、オレコとトラゴスが入っている。

「ああ、旦那、それはその……今日はお日柄も良く散歩するには最適ですな」

 カルタスがごまかしに掛かった。
もう余計な事は言うな。
話がややこしくなる。

「……お前はさっきから何を言っているんだ。新人は先輩の仕事を見て少しは覚えろ」

 衛兵がカルタスを叱った。
いいぞ、もっと言ってやってくれ。
ついでに故郷へ帰れと言ってやれ。

 カルタスはしどろもどろになって声が小さくなった。
少しそうしていろ。

「それが、こっちは羊の臓物が入ってましてね」

「臓物が?」

「へい、なんでも下処理して使うんだそうですが、俺も良くは知らねえんで」

 衛兵は臓物と聞いて顔をしかめた。
嫌がっているな。

「臓物なんか何に使うんだ?まさか陛下に提供するのか?……まあ、いい。もう行ってよし」

「確認はされないんで?」

「ああ、料理になってるならまだしも、生の臓物なんて見たくない。晩酌が出来なくなる」
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