見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一九三

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 しかしオニヤンマイザーは全く気にしていない。

 バチバチバチバチバチバチッ!

 オニヤンマイザーが結界の中に手を突っ込んでいる間、その干渉はずっと続いた。
みんな呆気に取られた様子でその光景を見つめている。

「お、おい。お主……」

 サルバスがオニヤンマイザーに声をかける。

「はい?」

 オニヤンマイザーがサルバスに反応した。
無視しないのか。
珍しい。

「お主、それは……」

 さすがの賢者も驚きは隠せなかった。
魔王をも拒絶する魔法の結界。
そこに手を突っ込んで平然としている者がいる。

 メイジとしての心中は穏やかではない。

「ん?ああ、これですか?大丈夫です。痛くありませんから」

 オニヤンマイザーは事も無げにそう言って、ヴァンパイアの体をあれこれとまさぐった。

「お、おい。やめろ!」

 ヴァンパイアが叫ぶ。
その声が裏返っている。

「いや……大丈夫って……そんな問題かえ……」

 サルバスの声は次第に小さくなっていく。

「ふむ。このまま持ち帰れそうだな」

 検分が終わったのか。
オニヤンマイザーは立ち上がった。

「クッ!待てッ!」

 ヴァンパイアが焦って叫ぶ。
しかし、襲い掛かってこようとはしない。
当然だろう。
オオムカデンダルの件はトラウマになっている筈だ。
その仲間が目の前に二人もいる。
頭一つになったヴァンパイアに、勝ち目など微塵もない。

「君には悪いと思っているよ。しかし、探求心と言うものにはどうしても抗えなくてね」

 オニヤンマイザーはそう言うと、足下のヴァンパイアの体を拾い上げた。
巨大なヴァンパイアの体。
痩躯になったとは言え、相当に大きい。
これを一人で軽々と担ぎ上げる。

 以前ロック鳥を担いだ時に散々驚いていなければ、俺も今腰を抜かしただろう。

 オニヤンマイザーは一切を無視して拠点へ歩き出した。
成す術もなくヴァンパイアはその後ろ姿を見つめるしかなかった。

「あ、そうだ」

 突然オニヤンマイザーが振り返る。

「レオ、そちらの先生を是非お連れしろ。なるべく丁寧にな」

 それだけ言うと、また淡々と歩き出した。

 なるべく丁寧に。
この部分に他意を感じるところがオニヤンマイザーの怖いところだ。

 反抗するなら連行しろ、と言う訳だ。

 俺はヴァンパイアの頭を見た。
どうすんだこれ。
放っておいていいのか。

「あの……サルバス様……」

 俺は言いにくそうにサルバスへ声をかけた。
実際言いにくいに決まっているが、そもそも誘拐するつもりだったのだから結果的にはこれでいいのか。

「カッカッカッカッカッ。ついて来いと言うのだろ?お主、ネオジョルトだろ?」

 賢者は看破していた。
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