見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一九二

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 今や魔王ヴァンパイアは完全にチェックメイトの状態だった。
首だけではどうやってもこの困難な状況を乗り切れまい。

「そこまでだ」

 突然声がした。
俺は声のする方を見る。
上だ。

 そこにはオニヤンマイザーの姿があった。
今まさに降りてくる所だ。

 オニヤンマイザーは静かに着地した。
手には見慣れないケースのようなものをぶら下げている。

「だ、誰だ!」

 ヴァンパイアが尋ねる。
その声は明らかに動揺していた。
無理もない。
初めて見るオニヤンマイザーであっても、その姿はオオムカデンダルや俺と類似している。
少なくとも自分の味方ではない事くらい、ヴァンパイアも瞬時に察したのだ。

「と、飛んできた!?」

 マズルの声が裏返る。
判るぞ、その気持ち。

「ほお……ここだけこんなに気温が低下するとは。これがメイジとやらの力か」

 オニヤンマイザーは不思議そうに体に当たるアラレを見た。

「実に興味深い」

 オニヤンマイザーはヴァンパイアを無視して手のひらにアラレを受け止める。

「貴様……ムカデ野郎の仲間だな……?」

 ヴァンパイアがオニヤンマイザーに問い掛ける。

「ムカデ野郎か。まあ、確かに僕はその『クソムカデ野郎』の仲間だが」

 ヴァンパイアはクソは言ってないが。

「何しに来た……!」

 ヴァンパイアが警戒感を更に強める。

「あー、実はね、君の体をもらい受けようと思ってね。悪いね」

 は?

 マズルもサルバスも、そしてヴァンパイアも一様に同じ顔をした。

「ヴァンパイアのサンプルがこんなに大きな状態で手に入るなんてそうそう有ることではないだろう?」

 そりゃそうだ。
しかし、魔王をサンプル扱いするか。

「な……何を言っている!」

 そう言いつつも、ヴァンパイアは薄々気付き始めている。
オニヤンマイザーが、本気で自分の体を持ち去ろうとしている事を。

 オニヤンマイザーは黙ってヴァンパイアの体に近付いた。

「これが、吸血鬼の体か。想像していたのとは大分違うな」

 そのヴァンパイアは変態している。
どちらかと言うと変態した状態がヴァンパイアの本性なのだが。

 オニヤンマイザーはヴァンパイアの体に手を伸ばした。

「あ!こら、危険だ!手を触れてはいかん!」

 サルバスが叫んだ。
確かヴァンパイアの体には光魔法が掛かっている。
おそらく結界のような物だ。

 しかしオニヤンマイザーは少しも意に介さず、そのままヴァンパイアの体に触れた。

 バチバチバチッ!

 やはりさっきと同じくオニヤンマイザーの手も魔法の干渉を受けた。
下手をすれば手首は無くなる。
良くて消し炭だ。
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