見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一九〇

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 ……ィィィィィィイイイイ

 小さく甲高い音が鳴り始める。
俺の右膝から爪先にかけて、赤い光の線が現れた。

 判るぞ。
この線に触れては危険なことが。
例え自分の体であっても、この線に触れてはいけないことが。

「なんだ……その光の線は」

 ヴァンパイアが俺の足の光を見て目を細めた。

「魔王、覚悟ッ!」

 だっ!

 俺は軽く飛び上がると、この右足でヴァンパイアの首に蹴りを浴びせた。

「グッ……ッ?」

 ヴァンパイアが一瞬くぐもった声を発した。
俺はそのまましゃがみこむように着地する。

 ゴロッゴロゴロ……

 そして、その目の前にヴァンパイアの頭が転がった。

「ひぃ……!」

 マズルが悲鳴をあげる。

「なんと……!」

 サルバスも驚きの声をあげた。

「き、貴様ァ……!」

 ヴァンパイアの頭部がこちらを向く。

「人間風情がぁあッ!」

「さっき聞いたぞ、その台詞は」

 俺は立ち上がるとヴァンパイアの頭を見下ろした。
ヴァンパイアは俺を怒りの眼で凝視していた。

 一瞬、その視線が俺から自分の胴体に移った。
なんだ?

 俺もヴァンパイアの胴体に目をやる。
ただ、うつ伏せに倒れているヴァンパイアの体が転がっている。
 
 !

 いかん!
俺はヴァンパイアの考えている事が判った。

 ヴァンパイアの頭が物凄い速さで飛んだ。
体に戻るつもりだ。
ヴァンパイアは不死身だ。
常識は通用しない。
再びくっつくぐらいの芸当は出来ると考えるべきだ。

 俺は慌てて滑り込む。

 ガッ!

 一瞬早く俺の足がヴァンパイアの体を蹴飛ばした。

「チッ!」

 ヴァンパイアが舌打ちをした。
方向を変えて素早く体を追っていく。

「くそっ!待て!」

 俺も急いで立ち上がり走った。

「ハハハッ!遅い!」

 ヴァンパイアが一足早く体に追い付いた。

「しまった!」

 見る間に頭が胴体とくっついていく。

「ハハハハハハハハ……グッ!?」

 高笑いするヴァンパイアが突然苦悶に顔を歪める。

「……俺は警備隊隊長だ。なめんな」

 マズルが背後からヴァンパイアのくっつきかけの首を、再び切り落とした。

「き、ききき、貴様あッ!」

 ヴァンパイアが驚きの表情でマズルを見た。

「うるせぇ!化け物っ!」

 首を切り落としたマズルは、そのまま体勢を崩して地面に倒れこんだ。

 ドチャッ!

雨でぬかるんだ泥の中へマズルが突っ込む。
とっさに駆け出してそのまま剣を振り下ろしたのだろう。
フォームもへったくれも無かったが、さすがはブラックナイトを蹴っただけの事はある。
伊達に隊長な訳ではなさそうだ。

「うう!寒いッ!」

 マズルは慌ててサルバスの元へ這って行った。
そう、この寒さでヴァンパイアは霧にはなれない。
もう消えることも、隠れることもできないのだ。
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