見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一八四

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 一瞬の出来事だ。
地面を打つ雨音以外、何の声も音も発する者はなかった。

 おそらく俺以外の全員が言葉を探している。
何が起こったのかを理解しようとしているが、途中で判らなくなっている。
そんな雰囲気だった。

 俺の体を打つ雨粒はさっきまでとは違う音を奏でている。
装甲に覆われた硬い体表は、雨に濡れて怪しく光っている。

 出来たぞ。
今度は変身出来た。
これで人間の姿の時よりも数段能力は向上している。
いや、数百段かもしれない。

「……なんなんだ。本当に」

 ヴァンパイアの狼狽した表情。
あんな顔をさせているなんて、実に満足だ。

「今度は今までのようにはいかんぜ」

 俺はそう言うと軽く構えた。
まずは先制攻撃だ。

 だっ!

 一気に接近して殴る。
俺はそう決めて飛び出した。

「ッ!」

 ヴァンパイアの驚いた顔が一瞬だけ見えた。

 ガッ!
 
 右の拳がヴァンパイアの頬に炸裂した。
その瞬間、ヴァンパイアは一直線に後方に飛んで木の幹に激突した。

「なんてパワーだ……」

 俺は自分の力に驚いて思わず拳を見つめた。

マズルもサルバスも言葉は発しなかった。
特に沈黙しているサルバスが何を考えているのかには興味がある。

「ぐ……ぐぐ……」

 くぐもった声を発しながらヴァンパイアが立ち上がる。
手の甲で殴られた頬を拭っている。

「お前……何になった。言え、何になったんだ!」

 元々人外である魔王ヴァンパイアには、すぐに判ったのだろう。
魔法や魔導具、その他の力を受けて強化したのではない事に。
俺が『人間では無くなった』ことに。

「面倒だから説明はしない」

 俺はオオムカデンダルを真似て同じことを言った。
正確には『俺にも判らないから説明はできない』が正しいが。

「くそっ……腹が立つな。こうなったら僕も遊んではいられない。ムカデ野郎の為に取っておいたんだが……」

 ヴァンパイアが諦めたように言った。
また変身か。

「有難い事に、ムカデ野郎にアドバイスをもらったからね。彼も余計なことをしたもんだ」

 ヴァンパイアはサディスティックな笑みを浮かべて俺を睨み付けた。

「よく判らないが、君もあのムカデ野郎と同じ感じがする。おそらく同種になったんだろ?もう君を甘くは見ない」

 ゴキッ!

 聞きなれない異音がする。

 ゴキッ!
ゴキゴキッ!
グググ……ガコッ!

 ヴァンパイアの骨格が変形していく。
以前も見た。
本性を現そうとしている。

 ばりばりばりっ!

 衣服を引き裂いて巨大化が始まる。
だが、雰囲気が前とは違った。
以前はもっと筋肉質で大型の猛獣といった感じだった。

 だが今回は。

「グググググ……今回は前みたいにはいかんぞ。ムカデ野郎にだって引けはとらん」

 ヴァンパイアが濁った低い声で言った。
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