見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
174 / 826

一七四

しおりを挟む
 翌日。
俺は八時前に警備隊の詰所に着いた。
マズルはもう居たが、他の隊員は程なくして揃った。

「あー、急だが皆に紹介しておく。新隊員のレオだ。今日の任務では俺と一緒に賢者様の直接警護を担当してもらう」

 マズルが俺を紹介した。

「レオだ。隊員と言っても今回だけの臨時隊員だ。マズルに頼まれて参加する事になった。よろしく」

 俺は適当に挨拶をした。
きっちり筋を通す必要もないだろう。
ずっと世話になる訳でもない。
それどころか賢者を拐うのだから。

「さて、早速任務に付いてもらおう。俺とレオは賢者様を迎えに行く。手筈は伝えた通りだ」

 マズルはそう言ってから、解散と指示を飛ばした。
皆それぞれに詰所を出ていく。

「よし、俺たちも行こう」

 俺はマズルの後に続いた。
町の北の入り口にて賢者を待つ。
三十分ほど経った頃、ようやく賢者一行が現れた。

「警護を担当する警備隊隊長のマズルです」

 マズルが帝国兵士に敬礼をした。

「貴様が隊長か。判っているとは思うが賢者様にもしもの事がないよう、しっかりと頼んだぞ」

 マズルが、はっ!と返事をした。
俺は馬上の賢者を見上げた。
幾つだろうか。
老人には違いないが、一定以上年を取ると、もう年齢は見ても判らない。

 ドラゴンクラスと言われる程だ。
百歳と言われても驚かないが、こんな老人でもそれなりに風格のような物を感じる。
さすがは賢者と言ったところか。

 マズルは帝国兵士から引き継ぐと、賢者の乗る馬の手綱を自ら引いた。

「それでは賢者様、とりあえず一度詰所に寄ります」

「なぜだ?」

 マズルの説明に早速疑問が付された。

「お疲れではありませんか?お茶くらいご用意出来ます。それからゆっくりと計画を練られては如何でしょうか?」

「その必要はない。疲れてもおらぬ」

「そうですか。ではこの後どうするかお決めになっておられるのですか?」

 マズルの質問に賢者サルバスは少し黙考した。

「……そうさの。ワシを狙う輩が居るとか居らぬとか。そやつらに会ってみたい」

 マズルの表情が険しくなる。
何故だかは判らんが、賢者サルバスは例の件を既に知っている。
マズルの企みは一秒で崩壊した。

 まあ、俺としてはどうでも良い事だ。
せいぜいマズルに任せて、気楽にチャンスを待とう。

 それにしてもネオジョルトを名乗るのは誰なのか。
まさか本当に彼らだとは思わないが、心当たりは全くない。

「……ところで、おい。お主」

 賢者サルバスが俺に声をかけた。
俺はサルバスの顔を見上げる。

「……なんでしょう」

 サルバスが、じぃっと俺の顔を凝視している。

「お主は何者だ」

「臨時に雇われた警備隊員です。そこのマズル隊長に乞われまして」

 別に嘘は言っていない。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...