見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一七三

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「さあなあ。噂は噂だからな。だが、今回は噂で済めば良いが、そうでないなら本当に大事になる」

 マズルが真面目なトーンで言った。

「できれば噂であって欲しい。何事も無いのが一番だ。だが、万が一には備える必要がある」

 マズルの言葉にヒスタが頷く。

「ネオジョルトなる奴らが本当に現れ、噂通りの実力なら俺たちだけで勝つのは難しい。だから賢者様をなるべく無事に逃がす事に専念する」

 そう言ってマズルが全員の顔を見渡した。

「帝国将軍と言えば相当強いですよね。ブラックナイトクラスに匹敵するかそれ以上……それとやり合うってのは、そいつらも相当ですよね」

「まあ……そうだろうな」

「で、そいつらが賢者様を襲うと」

 ヒスタが状況を確認するように話す。

「うむ」

「一方、賢者様はそのネオジョルトって奴らを調べたい。て事は賢者様は喜んで出ていくんじゃないですかね?」

「そう……だろうな」

 マズルがヒスタの言葉に苦悶の表情を浮かべる。

「で、俺たちは賢者様を無事に逃がしたい。これ……俺たちにできる事あります?」

 確かに。

「……だから賢者様にはネオジョルトが狙っている事は秘密だ」

 マズルの声が心なしか小さくなった。

「でも賢者様は奴らを調べたいんだから、秘密にしたってネオジョルトが出てきたら意味なくないですか?」

 マズルは返事をしなかった。
たぶん本人も判っていることなのだろう。
この矛盾を。

 それでもやらなければならない所が宮仕えの辛いところか。

 なるほど。
それで俺を必死にスカウトしたのか。
少しでも駒を増やし、なおかつ強いヤツが居れば欲しい状況だ。
賢者が出ると言ったら、否応なく護らなければならないからな。

「さ、話はこんな所だ。今日は明日に備えて早めに休め。明日は八時に集合だ。遅れるなよ」

 マズルはそう言って立ち上がった。
ヒスタとスルダンもそれに続く。

 俺はどうするか。
とりあえず宿を探さなければ。

「レオ、お前は寝床は決まってるのか?」

 マズルが尋ねた。

「いや、この辺の近いところで適当に宿を探す」

「そうか」

 マズルはそう言って、明日会おうと手を振った。
俺はそのまま歩いて、すぐ近くに宿を見つけた。
適当に部屋を取り夕飯まで休んだ。

 俺は俺で明日の事を考えなければならない。
すなわち、どう賢者を拐うかだ。
ドラゴンクラスの賢者を俺一人で何とか出来るのか。

 ネオジョルトの件も気にかかる。
だが、それは真偽も定かではない。
本当に現れるにしろ、デマにしろ、こればっかりは出たとこ勝負だ。

 だったら俺も出たとこ勝負にするしかないな。
そう思ったら他に考えることは、もう無かった。
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