見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
171 / 826

一七一

しおりを挟む
「賢者サルバス様は明日お見えになる。俺たちはもう段取りは済んでいるが、レオにはぶっつけ本番でやってもらう事になる。これはもう仕方がない。時間がないからな」

 マズルが落ち着いた声で言った。

「明日なんて急な予定に、わざわざ俺を無理に参加させる意味などないだろう」

 俺はマズルに言った。

「普通はそうなんだが……情報屋の話ではネオジョルトの奴らがサルバス様を狙っているという噂があるらしい」

 俺は頭が痛くなりそうなのを顔に出さないよう注意した。
誰がそんな噂を流しているのか。
俺は誰にも一言も言っていない。
頭に浮かぶのはオオムカデンダルの顔だが、いくら彼でもそんな事をする意味が思い付かない。
だったら俺をここに向かわせた意味はなんなのだ。

 他の面子もそんな事は言わないだろう。
だいたい、俺たちは誰とも接触がない。

 そんな凄腕の情報屋が居るのか。
にわかには信じられなかった。

「テロリスト集団ともなれば、本当は警備隊では若干手に余る。本来は兵士の出番なんだが、うちには知っての通り兵士は居ないからな」

「大丈夫ですよ。俺たちはそこらの兵士に負けるとは思っていません。テロリスト相手でも十分にやれます。それにうちには隊長も居ますしね」

 ヒスタがそう言って笑顔を見せた。

「そうであってくれれば良いんだがな。情報のない相手では油断はできん。常に最悪を想定していてくれ」

 マズルが真面目な顔で言う。
同一人物とは思えないほどきちんとしている。
伊達にブラックナイトを蹴った訳ではなさそうだ。

「……で、俺はどうすればいいんだ?」

 俺は話の先を促した。
事の真相が判らない以上、それが判るまでは彼らの予定に従う方がいいだろう。

「うむ。レオには俺と一緒にサルバス様の直接警護を頼みたい。他の隊員は遠巻きに警護するチームと周辺を警戒しながら巡回するチームに別れている。今までは俺が一人で直接警護する予定だったんだが、お前が来てくれたお陰でより完全な体制で警護できる」

 なるほど。
ややこしい話じゃなくて助かる。
それに賢者に最も近いポジションと言うのも良い。

「でもさあ、賢者様と言えば伝説のドラゴンクラスでしょ。ブラックナイトよりも上。世界に何人残っているのかも判らないんですよね。俺たちが警護する意味あります?」

 確かに。
現状、冒険者の階級制度は一番上がブラックナイトだ。
ブラックナイト級の冒険者とは世界存亡の危機には、作戦参加が絶対的に義務づけられているほど強力な存在だ。

 超一流のもっと上、最高級冒険者、それがブラックナイト級だ。
ドラゴン級は正式な階級ではない。
人々が尊敬と畏敬の念を込めてそう呼ぶのだ。
ブラックナイト級よりも上だとされるその実力は、もはや伝説的な力を持つとされる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...