見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一六八

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「あ、いや、その……違うんだ」

 男はしどろもどろになりながら、縮み上がった。
いったいなんだと言うのだ。

「いてて……いきなり殴り付けるとはな」

 大柄な方が頬をさすりながら起き上がる。
いきなり殴り付けてきたのは、俺の記憶によればそっちだと思ったが。

「それにしても平手打ちでこの威力とは……頑強な肉体と合わせて逸材だな」

 また勝手に話を進めているな。
俺は忙しいのだ。
面倒ごとはごめんだ。

「俺はさっきの店に居たんだが、一部始終を見ていたぜ。お前、凄いな。冒険者だろ?」

 見られていたとは。
あれだけ騒いだのだから今さら秘密もないが、それでも何故この男と一緒にいるのか解せない。

「俺はこの男の上司、マズルと言う者だ」

 上司?

「この男の様子がおかしいので、気になって話をしようとあの店に探しに行ったんだが、おかしな連中に絡まれてるのを見てな。様子を伺っていたんだが……」

 なるほど。
それを俺がぶち壊したと言う訳だ。
やっぱり余計な真似などするもんじゃないな。
俺はため息をついた。

「なるほどね。それで俺をつけ回して背後から殴り付けた訳か。合点がいった。気にするな、みんなもそうしてる」

 俺はそう言って踵をかえした。
これ以上関わり合ってたまるか。

「まってくれ。それについては謝る。悪かった」

 マズルはそう言って背後からすがり付いた。

「お前のあまりの強さを目の当たりにしたんで、つい試したくなったんだ。な?頼むよ、話を聞いてくれ」

「間に合ってる」

「まだなにも言ってない」

「俺は無宗教なので」

「勧誘じゃない。頼むよ」

 思ったよりもマズルは食い下がった。
かなりしつこい。

 俺は無視して歩き続けたが、マズルはズルズルと引きずられながらも放そうとはしなかった。

「俺は警備隊の隊長をしている。今度、警護があるんだが難しい案件で困っているんだ。お前なら文句なく採用だ。警備隊だぞ?一応役人待遇だ」

 この状態でも話を推し進めるとは。
仕事熱心なのか、自己中心的なのか。

「ひょっとして勧誘しているのか?」

「そうだ」

「間に合ってる」

「困っているんだ。助けてくれよ」

「勧誘なのか、依頼なのかどっちなんだ」

「両方だ!」

 警備隊の隊長の割にはあまり威厳がないな。
この国の警備隊は大丈夫か。

「なあ、頼む!」

 そう言いながらも相変わらずマズルは俺に引きずられていた。
この光景は市民が見たらどう思うのか。

「……俺は今、忙しい。悪いが他人の頼みを聞いている余裕などない」

「お、どんな用事だ?俺が手伝ってやろう。だからそれをとっとと片付けて俺を助けてくれよー」

 こんなにも気持ちがいいくらいハッキリと他力本願な男も珍しい。
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