見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
126 / 826

一二六

しおりを挟む
「もう、このくらいで良いだろう。これ以上やっても意味はない。全滅するまでやりたいなら話は別だが」

 オオムカデンダルが言った。
だが例えそうであっても、ライエルの立場では『はい、そうですか』とはなるまい。
それで死ぬことになっても、最後まで帝国の為に戦うしか選択肢はなかった。
 
「そんな訳にはいかんな……」

 ライエルが答えた。
やっぱりな。

「……そうか。見上げた心意気と言いたいところだが、良いのか?アレ、全滅だぞ?」

 オオムカデンダルはそう言いながら『アレ』をあごで指した。
アレとは当然帝国軍の事であり、その後ろに控える皇族の事である。

 まさか皇帝自ら来ているとは思えないが、この軍勢を見る限り誰かは来ている筈である。
それが皇子か皇女かは知らないが。

 全滅と言うことは、その皇族の誰かも死ぬと言う事であり、それは暗に『殺す』と言っているのである。

 判るだろうか。
どこの誰とも判らないような馬の骨が言ったのならば、一笑に付されるか打ち首だろう。
しかし今それを言っているのは、どこの馬の骨かは判らないが、それが可能だと思える者である。

 ライエルの顔。
ライエルの引きつった表情が、それがどう言う事かを物語っていた。

 戦わなければ帝国将軍としてはその存在意義を失い、戦えば明らかに勝ち目はない。
そしてそれは、全滅を意味する。

「アイツ、本当に意地悪だな……」

 オニヤンマイザーが呟いた。
いや、本当に。

「ライエル将軍」

 軍勢の中からグレード・ウォールを飛び出して駆けてくる兵士がいた。

「これを」

 兵士はライエルに近づくと小箱を手渡した。

「これは……!」

「ソル皇子がこれを使えと」

 なんだ?
ここからはよく見えないが、あの小箱が切り札なのか?
皇族が託す物。
この場面で皇族の持ち物が切り札になる物。

 魔導具の類いなのか。
考え付くのはそれくらいだ。

 ライエルは小箱を受け取ると小脇に抱えた。

「ネオ・ジョルトを名乗る者よ。私の最後の抵抗を見てみるか?」

 オオムカデンダルは両手を広げて首をすくめた。

「いいとも。人間、やれるだけの事は全てやるべきだ」

「ふふ。感謝する」

 ライエルはそう言うと小箱を両手で前に突き出した。

「皇子に賜った皇帝陛下の御力。今、このライエルめがお借りして、賊めらを叩き潰してご覧にいれまする!」

 ライエルはそう高らかに宣言すると箱を開いた。

 なんだ?何が出る?
俺は固唾を飲んで見守った。

 ライエルの手に握られたのは……
ペンダントか?

 俺は必死に目を凝らした。
手に握られたペンダントのような物が、チェーンにぶら下がるようにしてユラユラと揺れた。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...