見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一〇二

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「姫を返せっ!」

 大隊長が叫ぶ。

「返すつもりだと言ったろ?」

 オオムカデンダルが姫を目の前でブラブラさせながら言う。

「何をしている」

 別の声が話を割った。
見ると、馬に乗った別の男がこちらに近付いてくるのが見えた。

「何をしている。いったいいつまで掛かるのだ」

 男がもう一度言った。
大隊長は突然、直立不動になる。
大隊長よりも上か。緊張している。

 男はオオムカデンダルがぶら下げた姫を一瞥した。

「その赤子を渡してもらおうか」

 男は感情をまったく表に出さずにそう言った。

 俺は男の姿を観察した。
大隊長よりも上と言えば指揮官だろう。

 つまり将軍か。

 とんでもない男が出てきたなと思った。
将軍。つまりブラックナイト級冒険者と同等と言うことだ。

 国家に災いとなる脅威に対抗する存在だ。
魔王レベルのモンスターに立ち向かえる存在とさえ言われる。

「これが将軍か……」

 俺は小さく呟いた。
甲冑が藍色の光沢を放っている。
恐らく藍眼鉱だ。
ミスリル銀と並んで重用されるレアメタル。
単純な硬度なら藍眼鉱の方が上だ。

 上から下まで真っ青だ。
全身に藍眼鉱の装備を身に付けている。
こんな装備を身に付けられること自体、別格である事を表している。

「返してやっても良いが、まずは馬から降りろよ。高い所から見下すのは良くないな」

 オオムカデンダルが将軍に言った。
普通に考えれば将軍の地位は相当に高い。
馬上から声をかけても、なんらおかしな事はないのだ。

 だが、オオムカデンダルは違う。
この世界の秩序の外にいる。
相手が魔王だろうと皇帝だろうと、多分この態度は変わるまい。
当然、将軍など知ったことではない筈だ。
オオムカデンダルに限らず、彼らはみんなそうだろう。

 そうなると俺は微妙な立場である。
オオムカデンダルの配下になったものの、彼らの世界の人間と言う訳でもない。
この世界でこれからも生きていくのだ。

 しばらく沈黙が続いた後、将軍は静かに馬を降りた。

「これで良いか」

「いいとも。次は自己紹介だ。お前は誰なんだ?」

 オオムカデンダルは相手が誰だろうと態度は変わらない。
いっそ清々しい。

「……私はイスガン帝国の将軍、ルドムだ」

 やはり帝国か。
と言うことは、この姫は帝国の姫君と言うことか。
これはかなりマズい。

 帝国と言うだけあって、イスガン帝国の力は圧倒的だ。
対抗する東のカッパー王国でさえ、戦力比では六対四と負けている。
事実上、この大陸で最大最強の国家である。
王国とは違い、態度もかなり強権的だ。

 刃向かうことは許されない。

「……さあ赤子を返してもらおう」

 ルドムが迫る。

 だが、不可解だ。
俺は違和感を感じていた。
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