見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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九〇

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「あれ……なに?」

 ナイーダがロック鳥を指差した。
ロック鳥だと言ったナイーダが『あれはなに』とはどういう意味か。

 俺はもう一度ロック鳥をよく見た。
とにかくデカい。
それ以外言葉が見つからない。
そのくらいデカい。

 この大きさは、もはや災害レベルだ。
これが町に出現したら、地震や嵐と同程度の被害が出るはずだ。

 これほどの大きさだと、鶏が大きくなったコカトリスや、狼がデカくなった巨大狼など可愛いものである。
あれでさえ人間にはどうすることもできないのだ。
ロック鳥ともなれば、下手すればドラゴンレベルの災害がもたらされる可能性も十分にあり得る。

 俺はそんなことを考えながらロック鳥の足を見た。

「ん?」

 なにかを捕まえている。
ロック鳥が捕獲した獲物か。

 ロック鳥はこの鉱山の上を旋回していた。
明らかにここへ降りようとしている。
巣にでもしようというのか。

 俺はあらためてロック鳥を凝視した。
鋭い爪でなにかを握っている。
あれはなにか。

「象……?」

 間違いない象だ。
この辺りに象は生息していない。

 ただ、王族が自らの乗り物として象を持っている。

 ロック鳥が生息している西の方には象はたくさん生息している。
王族は自らの力を誇示するためにわざわざ象をそこからこの地へ取り寄せている。

 装飾された象に天蓋が取り付けられ、その下に王族が座る。
そういう光景を何回か見たことがある。

「あれは王族の象か……」

 掴まえられた象はまだ生きていて、必死にもがいている。
天蓋や装飾品は破壊され無惨に風になびいていた。

「なんてこった……」

 問題は改造手術を受けて常人離れした俺の視力だ。
その俺の目には小さくあるものが見えていた。

 小さな布で包まれた『なにか』だ。
時々小さな手のようなものが覗いている。

王族の象と一緒に捕まえられている『小さな手』。
考えたくもなかったが、勘違いするのも難しい。

 間違いなく赤ん坊だ。
しかも王族の赤ん坊。
次期国王か王女かは判らないが、王族の赤ん坊がロック鳥の爪に握られている。

「とんでもない光景を見てしまったな……」

 俺は乾いた声で笑った。
これで無視して帰ることはできなくなってしまった。
知ってて帰ったなどとしられたら、どうなるかは想像しなくても判る。

 そうかと言ってロック鳥と一戦交えるか。
それも考えられなかった。
いくらミスリル銀山がモンスターを引き寄せる魔窟だと言っても、こんなのはあんまりだ。
神が居るというのなら、この状況は過酷すぎる。

「逃げよう!二人なら逃げられるわ!」

 ナイーダが言った。
確かに、ナイーダのナビゲーションがあれば無事に逃げられそうな気はする。

 しかし、逃げたそのあとはどうする。
王家の赤ん坊を救わず見殺しにしたとバレたら、この大陸では生きてはいけまい。
少なくとも冒険者は廃業だ。
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