見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八五

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 バッ!

コカトリスは再び羽を広げた。
巨大な羽が自分の周囲を丸ごとなぎ払う。

「うおあっ」

 ただの羽ばたきさえ人間には強力な攻撃になる。
ヴァンパイアが従えていた巨大な狼の時もそうだが、大きいと言う事はそれだけで脅威なのだ。

 鶏が鶏であるうちはそれはただの鶏だ。
だが人間と同じかそれ以上のサイズになったら、それはもう危険な猛獣である。
それが例えスズメであっても絶対にそうなのだ。

コカトリスの何てことない羽ばたきで俺は弾き返された。
地面に叩きつけられゴロゴロと転がる。

「くそっ」

 俺はすぐさま顔を上げた。
モンスターから視線を外すことは死を意味する。

 コカトリスが追撃もせずにこちらをジッと直視している。

 ヤバい。

 直感的にそう思った。
何もしていないを『している』。
うまく言えないが、そんな風に感じた。
これは、もう何らかの行動中じゃないのか。

 俺はとっさに横へ転がり岩陰に隠れた。
小さな岩陰だ。
全身を完全に隠せるような場所ではない。

「痛ぇ……!」

 右肘に痛みが走った。
何だ?
何の攻撃も当たっていない。

 頼りない小さな岩陰で、俺は何とか立ち上がる。
体勢を整えながら自分の肘を確認した。
右肘が痛む。
俺は厚手のシャツの上から肘の辺りを触った。

 なんだこりゃ。

 気のせいか触感がおかしい。
違和感を感じる。
そして、軽く曲がった状態で固まっている感じがした。
伸ばそうとしたり、曲げようとすると、激痛が走る。

 嫌な予感がする。

「石化か……?」

 心臓がドキドキと早くなるのが判る。
これが石化。
見るのは元より食らうのも初めてだ。

「……石化攻撃を食らった生存者なんているのかよ」

 シャツをめくって確認したかったが、そんな余裕はなかった。
未だ絶賛、戦闘継続中なのだ。

 これは……剣を振れるのか。
ほぼ動かなくなった右腕をかばう。
振れない鉄の塊など、ただの荷物だ。
俺は剣を置いた。

 身軽になったと考えよう。
俺は不利になどなっていない。

 とは言えどうしたものか。

 逃げられるならその方がいい。
こんな有名レアモンスター、俺のレベルでは荷が重すぎる。
どう考えても格上過ぎだ。
ハイパーナイト、いやブラックナイト級が対応する適正クラスだろう。

 しかしナイーダを連れて逃走するのは難しいだろう。
体の小さなバジリスクならともかく、巨大な雄鶏であるところのコカトリスとでは歩幅が違う。
一歩の長さは比べるべくもない。

 小さな鶏でさえ結構な素早さだ。
この大きさなら馬よりずっと早かろう。

「隙を突かないと勝ち目はないな……」

 だが武器は使えず、身を隠す場所もほとんどない。
コカトリスは未だに動かずこちらをうかがっている。
岩場から少しでも出たらアウトだ。

「駄目か……」

 他に有効な手立ては俺には思い付かなかった。
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