見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八一

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 ピタッ ピタッ ピタッ

 バジリスクの濡れたような足音が近付いてくる。
この距離だ。
もうバジリスクもこっちに気付いているだろう。
隠れてやり過ごすのは無理だ。
いや、そもそも隠れられるような場所はない。

 戦うか。
ナイーダを守りながら戦えるか。
この狭い坑道では圧倒的不利は目に見えている。

「……場所が悪すぎる」

 判っててここへ来たとは言え、あまりにバジリスクにとって相性のいい地形だ。
そして、俺たちには最悪の地形だった。

 一か八か逃走を試みる。
失敗すればそれまでだが、このままでは敗北以外の結果はない。

 坑道から出られれば、まだ少しは選択肢がある。
初手が掛けとは如何にも難易度が高すぎるが、まずこの掛けに勝たなければその先はないのだ。

 やるしかない。

 俺は振り向くと背後のナイーダを問答無用で担ぎ上げた。

「や……!?ちょっと!」

 ナイーダが短い悲鳴をあげたが、今はそんなことに構っている場合ではない。
文句なら後で聞いてやる。

 それから今度は足の補助器のつまみを最大レベルまで回した。
今の俺の最大の切り札と言っていい。
これでダメなら何をやったってダメだろう。
諦めもつくというものだ。

 ヴ……ン

 低い独特の音が小さく聞こえる。
補助器が作動している音だ。

「怖かったら目をつぶっていろ」

 俺はナイーダに小声で言った。
ナイーダはおとなしく小さく頷いた。

 ピタッ ピタッ ピタッ

 この間にもバジリスクはどんどん近付いている。

 もう少しだ。

 俺はギリギリまで我慢した。
もう少し引き付けてから。

 額を脂汗が伝う。

もう少し。

もう少し。

あと一メートル。

 ちょうど五メートルの距離に達した辺りで、俺は地面を思い切り蹴った。

 だっ!

 バジリスクが反応するのが判る。
足をピタリと止めて口を開いた。

「毒だろ!」

 俺は誰に言うでもなく声に出した。
そして同時に壁に向かってジャンプした。

 俺は壁に足を掛けると、そのまま勢いに任せて壁を走る。
こんなことが出来るとは思わなかったが、思い付きでもやってみるもんだ。

 この強化された体と、不思議な補助器がなければ思い付きもしなかっただろう。

 一瞬前まで俺がいた場所を、バジリスクの吐いた何かが通過した。
紙一重だ。

たたた

 俺は早足で壁を走った。
それでもせいぜい三歩か、四歩か。
それ以上は壁に貼り付いていられなかった。

 壁を軽く蹴ってバジリスクの後方へ。

 バジリスクは首だけをひねって俺の姿を追っている。

 ちくしょう!もう少し!もう少しだ!

 俺は必死で足を動かした。

 シュゥ……

 なんだか嫌な音がした。

 また毒か。
辺りに毒を撒いている。

 俺は地面に着地すると、体勢を崩しながらも必死で走る。
振り返る余裕などなかったが、背後から迫る毒霧の存在を感じていた。
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