見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七六

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「しっ!」

 突然彼女が唇に人差し指を立てた。
俺はとっさに黙る。
そして彼女の視線の先を見た。

 コボルトだ。

 三匹のコボルトが集まってしゃがみこんでいる。

「何をしてるんだ……」

 俺は遠目にコボルトを眺めた。
それにしても、よく俺よりも先に奴らの存在に気付いたもんだ。
遠くて音も聞こえないし、普通の感覚ならばもっと近付かないと気付かないだろう。

 集中力か。

これが、か弱い少女がここまで生き延びた理由の一つなのかもしれない。
生き延びる為に驚異的な集中力を身に付けたのだろうか。

「……よしっ」

 俺は剣を抜いた。
三匹は面倒だが、今の俺なら一人でも殺れなくはない。

 グッ

 行こうとする俺の腕を、彼女が掴んで引き留めた。

「だめ」

「大丈夫だ、今なら殺れる。これ以上増えたら面倒だ」

 彼女は首を振った。

「まだ近くにいっぱいいるわ。すぐに集まってくる」

 俺は驚いた。
何故そんなことまで判るのか。

「音よ。かすかに聞こえるわ」

 音だって?

 俺は言われて耳を澄ました。

 ……

 ……

 聞こえる。

 確かにコボルトらしき声が聞こえる。
コボルトの言葉は知らないが、コボルトの声だと言うことは判った。

 俺は聴覚も常人を越えている。
だが、なぜ彼女はその俺よりも先に気付けるのか。

「アンタ強いんでしょ。だから油断しているのよ。私は徹底的に逃げて隠れるの。それが私のやり方」

 彼女はまっすぐな目で俺を見た。

 俺は油断しているのか。

そんなつもりは全くなかったが、事実として彼女の方が先にモンスター見つけている。
仲間が近くに居るのも的確に把握していた。
説得力が彼女にはあった。

「……確かにここは他とは違う。戦っていたらモンスターがモンスターを呼んで、どうにもならなくなっていたかもしれないな」

 俺はそう言って剣を収めた。
戦闘の激しい音を聞けば、コボルト以外も集まってくる可能性は高い。

「ありがとう。ここは君のやり方に従おう」

 俺は彼女に礼を言った。

「……アンタ変わっているわね」

「そうか?」

 彼女が不思議そうに言うのを俺はキョトンとして聞いていた。

「たまに冒険者には会うわ。でも大体は嫌なヤツよ。私の言うことなんてこれっぽっちも気にしないわ。欲の皮の突っ張った連中は、ここでは早死にするしかないのよ」

 なるほど。
確かに腕に自信のある冒険者は、こんな少女の言うことなど気にしないかもしれない。

 それで命を落とした冒険者連中を見てきたのだろう。
まだ十七だと言うのに過酷すぎる。

「どうする?やり過ごすのか?」

 俺は彼女に尋ねた。

「同じところに留まっていてはダメ。迂回しましょう」

 さすがだ。
迂回ルートもバッチリ下調べは着いている。
あの資料を見ればそれは一目瞭然だった。

 この子、凄いぞ。
俺はもう、彼女をただのか弱い少女だとは思わなくなっていた。
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