見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五八

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「く……くそ……貴様は……!」

 ヴァンパイアの苦しい心情が言葉からにじんだ。
怒りと驚きと焦燥が混ざった声だった。

「噂に聞くのとだいぶ違うな。期待してたんだがな、まあ、噂なんてそんなもんか」

 オオムカデンダルはがっかりしたように言った。
声音から本気で落胆していることがうかがえる。

「もう奥の手とかないのか?だったらテストはそろそろ終了だな」

 オオムカデンダルはそういいながらヴァンパイアに向き直った。

「くそ……この私が本気を出さなければならないのか!?屈辱だ!」

 ヴァンパイアが唸るように言った。
まだ本気を出していないと言うのか。

 いや、強がりだろう。
本気を出して勝てるなら最初からそうする筈だ。
あんなに狼狽する必要もない。

「この高貴なる私が……あんな姿を晒すのは嫌だが背に腹は変えられん。全員皆殺しにすれば本性を知る者はいないのだ。そうさ、何も問題ない。今まで通りだ」

 本性?
どういうことだ。
今から姿が変わるとでも言いたげだ。

「あるのか奥の手。よし、待っててやるから早く見せろ」

 つい今さっきまで落胆していたオオムカデンダルは嬉しそうにそう言うと、大道芸を待つ子供のように期待に胸をふくらませて大人しく待った。

「余裕がいつまでも自分の側にあると思わないことだ。丸かじりにして血を直接頬張ってやる」

 ヴァンパイアが喋っている間に異変が始まった。

 ゴキッ、ゴキキッ!ゴリッ!

 なんの音だ。
とても不快で不気味な音がする。
だが俺はすぐにその原因に気付いた。

 ヴァンパイアの体が大きくなっている。
上着ははち切れそうなほど、パンパンになっていく。

 顎が張りだし、大きく発達する。
頬が裂けた。歯茎が露になり、牙が伸びた。

 巨大化だけではない。
骨格そのものが変化している。
さっきまでの人型を保ってはいなかった。

 なんだこれは。
見たこともない異形の怪物。
大きな耳、巨大な体躯。背中には悪魔のような羽が生えている。
すでに衣服ははち切れ全裸になっていたが、体表は動物のように毛がびっしりと生えていた。

 何か動物のようだ。

「なるほど。蝙蝠と何かの変種っぽいな。なにが混ざっている?」

 そう言ってオオムカデンダルが腕組みをしながら自らの顎を触った。

「……さっきから貴様は他の人間とは違う所を見ているな。貴様は本当に何者なのだ」

 ヴァンパイアが尋ねた。

「さっきも言ったろ?面倒だから説明しない」

 まったく、この男はこの期に及んで……

「ふん。そうか、ならば私も説明はしないとしよう」

 ヴァンパイアはそう言ってニヤリと笑った。
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