見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
53 / 826

五三

しおりを挟む
「遊んでやっていたのだ。勘違いをするなよ」

 ヴァンパイアが冷たい声で言った。

 本気で来るということか。
俺は段々と動きにくくなっていく自分の体を、必死に操った。

 目を見ようが見まいが関係なかった。
ヴァンパイアに睨み付けられると体の自由を奪われていく。

「……まだ動けるのか。本当に何者なんだ」

 ヴァンパイアは不思議そうに言った。
恐らく本来ならばとっくに動けなくなっているのだろう。
魅了の魔法『チャーム』も同時に掛けているはずだ。

 それらが未だに完全に掛からないのは、やはり例の改造手術なるもののお陰なのだろう。
だが、それも時間の問題だ。
このままではいずれ動けなくなり、ヤツの意のままになってしまう。

「でやあっ!」

 俺はヴァンパイアに向かって走り出した。
体が重い。
まるで海の中に居るようだ。

「ふっ。遅いぞ、まるで町娘のようじゃないか」

 俺はヨロヨロとよろけながらヴァンパイアの前までたどり着いた。

 渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
しかし狙ったところに振り下ろす事さえ難しかった。

 剣先が見当違いの場所に振り下ろされ、地面をえぐった。

 バッ!

 ヴァンパイアが軽くマントをひるがえした。

「うあっ!」

 俺は成す術もなく吹き飛ばされる。
全く勝負にもなっていない。
全力の時でさえ相手になっていなかったのだ。

「やはり非力だな。人間」

 ヴァンパイアが退屈そうに俺を見下ろした。

「お前は確かに興味深かったが、所詮は人間。やはり要らんな……」

 ヴァンパイアが何度もマントをひるがえす。
その度に俺は右に左に吹き飛ばされては、何度も地面に叩き付けられた。

「グッ……」

 口から血しぶきが漏れた。
内蔵がやられたか。

「もったいないが……さらば」

 ヴァンパイアが右手を俺に向けた。

「むう……ッ!」

 見えない力が俺の体を捻りあげた。
まるで雑巾でも絞るかのように、俺の体はひしゃげて悲鳴をあげている。

「グッ……ぐぐッ……!」

 もう駄目だ。
これ以上は。

 バラバラバラバラバラバラバラ……

 その時、聞きなれない不思議な音が近付いてきていることに気がついた。

 なんだこの音は、幻聴か。

遠くなりそうな意識を無理やりつなぎ止めて、俺は目を見開いた。
夜空の向こうになにやら影のようなものが見える。

 鳥?

 明らかに大きい。
なんだ?モンスターか?

 霞む目でそれを凝視した。
馬よりももっと大きい。
二頭立ての馬車よりもまだ大きい。

 なんなんだ。あれは。

 チカッ、チカッと光を発している。
そして月明かりよりももっと明るい光が俺を照らした。

 まぶしい。

 やがてそれは、あっという間に頭上までやって来た。
とてつもない速さだ。
最初に見たとき、まだ町の向こうだった。

バラバラバラバラバラバラバラッ!

 なんという風だ。
辺りには突風が吹き荒れていた。
そして、なんという轟音だ。
鼓膜が今にも破れそうだった。

「なんだこれは……?」

 俺の思っている事をヴァンパイアが口にしたことが、なんだか少し可笑しかった。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

秘密結社ニヨル世界征服活動

uji-na
ファンタジー
【カムロキ】は偉大なる神州日本の復古を謳い、やがて全世界を手中に収めんと企む秘密組織である。 世界征服計画の第一段階として手始めに議事堂の占領と議員の洗脳を行うべく、潜伏中の地下から地表の市街地へと向かった秘密結社カムロキ。ところが、その先に待っていたものは奇妙な生物達が溢れる不思議な森だった。見知らぬ森に奇怪な生物の群れ、本来の目的地とは似ても似つかぬ場所。世界征服計画に早くも暗雲が立ち込める中、まずは情報を集めるためカムロキは調査に乗り出すのであった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...