見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五三

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「遊んでやっていたのだ。勘違いをするなよ」

 ヴァンパイアが冷たい声で言った。

 本気で来るということか。
俺は段々と動きにくくなっていく自分の体を、必死に操った。

 目を見ようが見まいが関係なかった。
ヴァンパイアに睨み付けられると体の自由を奪われていく。

「……まだ動けるのか。本当に何者なんだ」

 ヴァンパイアは不思議そうに言った。
恐らく本来ならばとっくに動けなくなっているのだろう。
魅了の魔法『チャーム』も同時に掛けているはずだ。

 それらが未だに完全に掛からないのは、やはり例の改造手術なるもののお陰なのだろう。
だが、それも時間の問題だ。
このままではいずれ動けなくなり、ヤツの意のままになってしまう。

「でやあっ!」

 俺はヴァンパイアに向かって走り出した。
体が重い。
まるで海の中に居るようだ。

「ふっ。遅いぞ、まるで町娘のようじゃないか」

 俺はヨロヨロとよろけながらヴァンパイアの前までたどり着いた。

 渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
しかし狙ったところに振り下ろす事さえ難しかった。

 剣先が見当違いの場所に振り下ろされ、地面をえぐった。

 バッ!

 ヴァンパイアが軽くマントをひるがえした。

「うあっ!」

 俺は成す術もなく吹き飛ばされる。
全く勝負にもなっていない。
全力の時でさえ相手になっていなかったのだ。

「やはり非力だな。人間」

 ヴァンパイアが退屈そうに俺を見下ろした。

「お前は確かに興味深かったが、所詮は人間。やはり要らんな……」

 ヴァンパイアが何度もマントをひるがえす。
その度に俺は右に左に吹き飛ばされては、何度も地面に叩き付けられた。

「グッ……」

 口から血しぶきが漏れた。
内蔵がやられたか。

「もったいないが……さらば」

 ヴァンパイアが右手を俺に向けた。

「むう……ッ!」

 見えない力が俺の体を捻りあげた。
まるで雑巾でも絞るかのように、俺の体はひしゃげて悲鳴をあげている。

「グッ……ぐぐッ……!」

 もう駄目だ。
これ以上は。

 バラバラバラバラバラバラバラ……

 その時、聞きなれない不思議な音が近付いてきていることに気がついた。

 なんだこの音は、幻聴か。

遠くなりそうな意識を無理やりつなぎ止めて、俺は目を見開いた。
夜空の向こうになにやら影のようなものが見える。

 鳥?

 明らかに大きい。
なんだ?モンスターか?

 霞む目でそれを凝視した。
馬よりももっと大きい。
二頭立ての馬車よりもまだ大きい。

 なんなんだ。あれは。

 チカッ、チカッと光を発している。
そして月明かりよりももっと明るい光が俺を照らした。

 まぶしい。

 やがてそれは、あっという間に頭上までやって来た。
とてつもない速さだ。
最初に見たとき、まだ町の向こうだった。

バラバラバラバラバラバラバラッ!

 なんという風だ。
辺りには突風が吹き荒れていた。
そして、なんという轟音だ。
鼓膜が今にも破れそうだった。

「なんだこれは……?」

 俺の思っている事をヴァンパイアが口にしたことが、なんだか少し可笑しかった。
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