見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
46 / 826

四六

しおりを挟む
「……仕方がない。多少無理でも狼を蹴散らして突破する方がマシだろう」

 ガイが言った。

 残りの狼、六匹。
それを蹴散らして逃げる方が、声の主と事を構えるよりマシだということか。

 しかし。

 狼の脚から逃げ切れるものなのか。
俺はともかく、他のメンツには無理だろう。
ましてや巨大化している狼の歩幅は一足飛びに一〇数メートルはあるだろう。

 それでもその方がマシだと言うのか。

 俺はガイの顔を見た。
土気色をしている。
それに反して眼はギラついていた。

 死ぬ気か。
おそらく衛士としてパーティーの殿を務めて、俺たちを逃がすつもりなのだろう。

 自分は死ぬつもりで。

鬼気迫る迫力がガイにはあった。
これがハイパーナイトクラスの冒険者なのか。
ただの上級冒険者とは違う。

 俺はついこの前、パーティーが全滅して死にかけた男だ。
この覚悟はあの時の俺には無かった物だった。

 俺はまた後悔するつもりか。
生き残って悔いながら過ごすのか。
何のために強くなったのか。
今の俺ならやれるのではないか。

 今度は俺が護らなければ。

 俺は握りっぱなしの剣を見つめた。
剣に俺の顔が映る。

 なんてツラだ。
俺はこんなシケたツラをしていたのか。
そう思うと何だかおかしくなった。

「どうした。なにがおかしい」

 バルバが俺の顔を見て怪訝そうに眉をひそめた。

「いや、なんでもない」

 俺はそう言うと覚悟を決めた。
俺だって冒険者だ。

「みんな、俺が狼を全力で叩く。その隙に全力で走れ。絶対に振り返るな」

 全員が俺に視線を向けた。

「なにを言って……」

 ディーレが言いかけたのを遮る。

「でも逃げる殿はガイがやってくれよ。俺もすぐに続くからな」

 俺はそれだけ言うと、後の声を振り切って飛び出した。

「走れぇッ!」

 俺は叫んだ。

 先頭の狼に真っ向から斬りかかる。
振り上げられた狼の巨大な前足を転がりながらかわした。

 腹の下に潜り込んで下から攻める。
さっき三匹倒した。
勝てる相手なんだ。

「ウオオオオン!」

 腹に剣を突き立てられた狼が悶絶して声をあげる。

 その脇をバルバとルガとディーレが駆け抜ける。

「レオ!すぐに来い!」

「レオ!死なないで!」

「レオ!レオ……!」

 口々に俺の名を呼びながら走り抜けていく。

 俺は必死に狼を惹き付けながらみんなを逃がした。

「うおおおおっ!」

 雄叫びと共にガイが突っ込んできた。

 ドカッ!

 背後で鈍い音がした。
 振り向くとガイが盾で狼の爪を受け止めている。
俺を救ってくれたのか。

「へっ……背中がガラ空きだぜ」

 やせ我慢と判る笑顔でガイが強がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...