見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四〇

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「これは……あまりよろしくないな」

 ガイがこっちを向いて言った。

「もう遅いぞ」

 バルバが答える。
そう。もう遅い。

 俺たちはとっくに囲まれている。
姿は見せないが確実に風下から迫ってきている。

 一体いつから。
俺たちにここまで気付かせないとは、やはり普通ではない。

 丘の上から静かに風が吹いている。
つまり俺たちが今上ってきた丘の入り口付近は、既に回り込まれているということだ。

「チクショウ……獣の分際でやるじゃねえか」

 ガイが気色ばむ。

「まあ、確かに畜生だからな」

 バルバが軽く笑った。

「いつも通り俺が引き受ける。後は頼んだ」

 ガイはそう言うと、先に立って風下へと進む。
大きな盾を前に構え、低い姿勢で進んでいった。

 見える。
強化手術とやらのお陰で、俺の身体能力は格段に跳ね上がっている。

 巧みに岩影や茂みに伏せている大きな獣が俺にはよく見えた。

「いるぞ。前方に一匹、右斜めの岩影に一匹。左手に二匹伏せながら前に移動しているのがいる」

 全員が狼の姿を探す。

「本当だ。確かにいるな」

 言われさえすれば、彼らなら見つけるのはそう難しくはない筈だ。
全員が狼の位置を把握した。

「足跡は一〇匹以上いた。他にもいるはずだよ」

 ルガが言う。
ならば残りは最低でも六。
一体どこにいるのだ。

 俺は注意深く残りを探した。

 ディーレの付与魔法のお陰で、装備品は全くといっていいほど重さを感じない。
おそらく、重武装のガイが一番恩恵を受けているはずだ。

「いや。盾には掛けてない」

 ガイが振り向きもせずに言った。

「プレートメイルには掛かっているが、盾に掛けると防御力が落ちる」

 そうなのか?

「盾ってのは重いから攻撃を弾き返せるんだぜ」

 ガイがそう言って笑った。

 なるほど。重いほど強くなるのと同じってことか。
考えたこともなかったが、言われてみれば納得するしかなかった。

「来るぞ」

 バルバが言った。
茂みがわずかに揺れながら迫ってくる。
風で揺れる草の動きとは微妙に違う動きだ。

 それが真っ直ぐ迫ってくる。
ガイが一層体勢を低くして盾を構えた。
背中のメイスを引き抜き振りかぶる。

 人間の間合いよりも狼の間合いの方が長い。
奴らの射程圏に俺たちはもう入っている。

 ザッ!

 草を鳴らしてバルバが飛び上がった。

「ヒョオウッ!」

 声とも息とも付かない音を発ててバルバが茂みに飛び掛かる。

 ガインッ!

 甲高い音が辺りに鳴り響いた。
いつの間にか、どこから取り出したのかヌンチャクを持っている。
それが茂みの中の狼の額にヒットしていた。

「オオンッ!」

 狼の悲鳴などあまり聞きなれない。
たまらず狼が茂みから姿を現した。

 デカい……
なんという大きさなのか。

 熊並み?
とんでもない。
熊より大きい。

 全員に衝撃が走った。
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