見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
27 / 826

二七

しおりを挟む
「なあ……」

 俺は困惑しながら声を掛けた。

「あん?なんだ?」

 オオムカデンダルが不審そうに俺を見る。

「アンタのことを何と呼べばいいかと思ってな……」

 主従関係を受け入れて俺はこの力を手に入れたのだ。
彼女の治療もそうだ。

 対等な話し方も改めなければならないだろう。
だが俺は突然話し方を変えるのに戸惑っていた。

「あぁ、そうだな……ま、別に好きに呼べよ」

 オオムカデンダルは一瞬考える素振りを見せたが、すぐに面倒臭そうにそう言った。

「好きにと言われても……皆が呼ぶように呼ぶのは……」

 俺は困ってしまった。
こんな状況は初めてなのだ。
誰でもこんな経験をしたことはないと思うが。

「百足でも謙太郎でもオオムカデンダルでも好きに呼びな。お前が俺の役に立つならそこは気にしない。俺たちはもう『組織』ではないからな」

 組織?

「……面倒だから説明しない」

 それは口癖なのか。
オオムカデンダルはまたそう言って黙ってしまった。

「さて、屋敷に戻って準備するか。説明が面倒でもお前が知らなければならないことは説明しない訳にはいかないからな」

 オオムカデンダルはそう言って先に歩き出した。

 彼は非常にシンプルな男に見える。
だがそれは見た目だけで、実はとても複雑なのだと思う。
サッパリしているのは単に彼の性格なのだろう。

 俺はこの男の支配下に置かれることなったのだ。
これからは注意深く彼を見ていこうと思った。

「どうだった?」

 屋敷に戻ると女がそう言って迎えた。
確かウロコフネタマイトと言ったか。
女性に付ける名前ではないと思うが、彼らのことをとやかく言うのは無意味だ。

「おお、成功成功大成功だ。俺も驚いた」

 オオムカデンダルが楽しそうに言う。

「当たりだよ。大当たりだ。適合性が半端ない」

そう言ってオオムカデンダルは自分の席に座った。

 そっぽを向いていたアキツシマことオニヤンマイザーも興味に負けてこちらに向いた。

「たかが戦闘員の為の強化処置だろ。大袈裟な」

 オニヤンマイザーが鼻で笑う。

「まぁ、俺もそう思ってたんだけどな。あれは適合率一二〇……いや一五〇はいってるな」

「馬鹿も休み休み言え。一〇〇も滅多に出る数値じゃない。今までで一〇〇が出たことは一度しかない」

 オオムカデンダルの言葉にオニヤンマイザーが噛み付いた。

「そう。一度だけだ。その一度がこの俺だけどな」

 オオムカデンダルが自分を指してニヤリと笑った。

「だから俺は戦闘員から戦闘魔人に格上げになり、幹部の一員になったって訳だ」

 オオムカデンダルが誇らしげに言った。
俺には何の話やらさっぱり判らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
剣と魔法の世界にて。余命宣告を受けたリインは、幼馴染に突き放され、仲間には裏切られて自暴自棄になりかけていたが、心優しい老婆と不思議な男に出会い、自らの余命と向き合う。リインの幼馴染はリインの病を治すために、己の全てを駆使して異世界の記憶を持つものたちを集めていた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

ある王妃の末路

どら焼き
ホラー
要望が多かったホラーの試作品です。怖くないかもしれません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子
恋愛
アリックス・リードは二十三歳になる子爵令嬢。若い頃、婚約に失敗して行き遅れになった彼女は、王妃付きの女官をしていた。結婚願望ゼロの彼女にとある人物との結婚話が舞い込む。そのお相手とは、社交界きっての貴公子であるオエル・ブリトニー伯爵。両親を早くに亡くし、爵位を若くして継いだ彼は、超有望物件。ただし遊び人として有名だった。だからと言う訳ではないが伯爵は未だに独身。結婚する気配すらなかった。それもそのはず、伯爵本人が結婚する気が全くないのだから。 そんな伯爵との結婚に疑問を感じるアリックス。実はこの結婚は彼女の兄が持ってきたもの。実は、兄と伯爵は学友。色々な思惑アリの結婚話。一見、アリックスには全くメリットのない結婚と思われた。だが、彼女はこの結婚を承諾する。契約結婚として・・・。 何故、彼女は契約結婚を承諾したのか?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...