見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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「俺も行く」

 当然俺も行く。
この件の当事者は自分である。

「お前歩けないだろ?」

「……いや、大丈夫だ。これは俺の問題だ」

 オオムカデンダルの心配を無視して俺は何とか立ち上がった。
痛みは随分と弱まってる。
歩けないほどではない。

「こいつ麻酔の効果を理解してないぞ」

 オオムカデンダルはそう言って女を見た。

「そりゃあそうでしょう」

 女はそう言いながら、どこから持ってきたのか器具のような物を手にしている。

「ほら、脚を出しなさい」

 そう言って彼女は俺の足にその器具を取り付けた。

 重い。
折れた足にこんな負担の掛かる物を取り付けてどうしようと言うのか。

「あなたの足を補強してくれるわ」

 彼女の言葉を疑いながら、俺は足を動かしてみた。

ウィーン……

 虫の羽音のような小さな音を立てて器具が動く。

「軽い……」

 不思議だ。
重いのに足を動かすのに何の問題もない。
早い動きにも違和感を感じない。

 どこでこんな物を手に入れたのか。
とても不思議なアイテムだ。
高価な物に違いなかった。

「痛みが消えているのは永遠では無いわ。ニ、三日すればまた痛み出すでしょう。ちゃんと手当てしなさい」

 彼女はそう言って私から離れた。

「じゃ、早速行くか。化け物かあ、楽しみだぜ」

 オオムカデンダルはそう言って部屋を出て行く。
強がりのようには見えない。
その足取りは軽く、今にもスキップを始めそうだ。

「お、おい。待て」

 俺は慌ててその後ろを追う。

 屋敷の玄関を出て林の中を進む。
辺りは直ぐに森と見分けが付かなくなり、そのあとは道なき道を掻き分けながら進むことになる。

 オオムカデンダルは木々を物ともせずに進んで行く。
 まるで違う生き物のようだ。その速度は野生動物のそれだった。

「なんて速さだ……!」

 俺は必死で追いすがる。
この足の器具が無ければ俺は完全に置いてけぼりだ。

 やがて崖にぶつかった。
俺はここを滑落してきたのだ。
見上げるほどの高さである
よく生きていたものだ。本当に俺は運がいい。

「お前、ここを登れるか?」

 オオムカデンダルは俺の方を振り返る。

「……いや、無理だ」

いくらなんでも無理だろう。俺でなくてもここは登れまい。

「そうか……ま、そりゃそうか」

 オオムカデンダルが、仕方ないと言うように歩き始める。

 まるで自分は登れるかのような口ぶりだ。

「お前は登れるのか」

 つい不満げに口から言葉が出た。

「ああ。登れるよ」

 気軽に聞いた言葉に、当然とばかりに驚くべき返事が返ってきた。

 登れる?
俺はまた崖を見上げる。

 いや、無理だろ。

 ただの冗談だと気付くまで、俺はしばらく崖を見上げていた。
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