見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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「……フィエステリアームがそこまで言うなら好きにしたまえ。ただし私は関係ない」

 インテリ風の男はそう言って会話から離脱した。

「どうでも良いが早くしないとソレ死んじゃうんじゃないの?」

 オオムカデンダルが名前らしい男は頬杖をついたまま顎で俺を指した。
女は俺を一瞥して部屋の奥へと足を進める。

 部屋の奥には別の部屋へと続く扉があった。
そこから今の部屋を出ると再び通路を移動し、今度は階段へと向かった。

 広いな。
俺はそんなことを思いながら、ほとんど彼女に引きずられるようにして屋敷の中を移動した。

 階段を下へと降りる。
地下だ。
地下と言えば抜け道か、隠し部屋が相場だ。
隠し部屋と言えば聞こえは良いが、大体の場合は牢獄か拷問部屋と言うのが一般的だ。

 俺はどうなるのか。
そう思っては居たが諦めがついているせいか、ほとんど何も感じない。
大体、本来ならもうとっくに死んでいるのだ。
ほんの数分寿命が伸びているこの状況は、言ってみればオマケのような時間である。

 階段の先に最後と思われる扉があった。
この中が牢屋か。
俺は特に抗うことも無く無抵抗に部屋へと入った。

 なんだこりゃ。

 牢屋のようには見えない。
棺のようなものが置いてあり、鈍く発光している。それには沢山の管や線が繋がっていて、それらはまた別の何かに繋がっている。

 一体何なのか。
さっぱり見当もつかない。
棺はガラス張りで筒のように曲面になっている。
こんなの見たことがない。

「さあ、この中で横になりなさい」

 女はそう言って俺を棺の中へ入るように促した。

「……この棺は俺のための物なのか?何処かへ埋葬するつもりか?」

 俺は女に質問しながらも、言われるままに棺の中へと足を入れた。

 どうでもいい。
野垂れ死にに比べれば埋葬してもらえるだけ幸せなのかも知れない。

「ふふ。違うわよ、傷を癒す為の処置よ。しばらくこの中で大人しく寝てると良いわ」

 女は妖しく微笑むとそう言って俺の額に手を当てた。

 そうか。それならそれでもいい。
どっちでもいい。
鬼が出るか蛇が出るか。
命のチップはまだ掛けられたままらしい。
ひょっとしたら、一発逆転もあるのかも知れない。

「時間が来たら迎えにくるわ。安心しておやすみなさい」

 女はそう言い残して部屋を出ていった。
棺の蓋は一人でにゆっくりと閉じられた。

 ガラス張りの棺の中から何となく外を見渡した。

 不思議な部屋だ。
見たこともない調度品ばかりだ。
至るところが光を放っている。

 そして、この中は快適だ。
もしかしたら、ここはもう既に冥土なのかも知れない。

 俺はそんなことを思いながらゆっくりと目を閉じた。

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