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本編

電磁キック

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「勝者スイフトッ!」

またスイフトが勝った。
中堅のシロウも、副将のナギも全く良い所無しだった。
あまりにも圧倒的過ぎた。
瞬殺が続き過ぎて観客が飽きてきている。

今のウチにトイレに行こう、なんて言う客も出始めていた。
大将のバッカスは怒りに震えていた。

泣く子も黙るバーサーカー一味である。
これでは物笑いの種だ。
恐れを感じられなければ商売上がったりである。
舐められてはこの世界で生きては行けない。

バッカスは腹を括った。
大きな麻袋を担いで闘技スペースへと降りて行く。

「さあ、バーサーカーチーム後がありません。いよいよ大将戦です!」

司会者が何とか試合を盛り上げようと必死に煽る。
バッカスはスペース中央に立つとスイフトを睨み付けた。

「それではすぐに参りましょう! バーサーカーチームから大将バッカス選手!」

紹介されたがバッカスは少しも観客に応える事はしなかった。
そして、おもむろに袋を開くと中に手を入れる。

そして。

取り出したのは銃だった。
猟銃だ。
会場から悲鳴とブーイングが飛び出した。

「おっと! これはいけません! 銃火器の使用は認められておりません。反則です。バーサーカーチーム大将バッカス選手の反則負けにより、勝者スイフトッ!」

司会者がすぐさま反則負けを宣言した。
これでバーサーカーチームはストレート負けが確定した。

「……うるせえ。今更そんな事が関係あるかッ! てめえだけは生かして返さねえ。こんなバケモンが居たらどのみち俺達の邪魔になるのは目に見えている。ここで始末させてもらうぜ!」

バッカスは試合の内容よりも、スイフトが今後の活動の障害になる事を憂慮した。
そう判断してここでスイフトを消す事にしたのだ。

「へっ。涙ぐましい努力じゃねえか。まさかてめえの組織経営の為に失格覚悟でタマ取りに来るたあな。社長は辛えなあ」

唯桜が鼻で笑って酒を飲み干した。
デストロイヤーゴは何故か笑う気にはなれなかった。
魔人会の番頭をやっているデストロイヤーゴの立場では、バッカスの気持ちは良く解る。

とは言っても、向こうは気の向くままに暴れまくっている暴徒みたいな物である。
きっちり計画を立てて組織運営に力を傾けている魔人会と一緒にはしてもらいたく無い。

バッカスは銃口をスイフトに向けて狙いを定めた。

「いけません! バッカス選手、退場して下さい!」

司会者が警告する。
恐ろしい暴力集団だった事を急に思い出した。
警告しながらも司会者は内心怯えていた。

しかしスイフトは特に反応らしい反応を見せない。
最初から最後まで棒立ちのスタイルを崩す事は無かった。

「舐めやがって。何処まで余裕かましてられるか見せてもらうぜ!」

そう言ってバッカスは引き金を引いた。

パアンッ!
乾いた音がして銃口から煙が上がった。
観客が一斉に静まり返る。

あれほど激しくブーイングを繰り返していたのに、今は誰一人声を発する者は居なかった。

「どうだ、銃弾の味は」

悪党の笑いを浮かべてバッカスがスイフトに尋ねた。

「あれで殺れたと思う所が三流だってんだ」

唯桜はもう大して興味無さそうに酒をあおった。
そうしてから牛嶋のグラスにも酒を注ぎ足した。

司会者は銃声と共に逃げ出していた。
流石に命は惜しい。
闘技スペースにはスイフトとバッカスの二人しか居なかった。

スイフトのローブに穴が開いている。
バッカスは当然始末したと思っていた。
しかし。

緩慢とした動きでスイフトはローブの中から潰れた銃弾を取り出した。
何をしているのか観客にも、バッカスにも解らなかった。

ゆっくりとそれを前に突き出す。
そこでバッカスは初めてそれが自分の撃ち込んだ銃弾だと理解した。

「な、何だと……ッ!」

スイフトがそれを足下へ落とした。
バッカスは激しく戦慄した。
スイフトが静かにローブを脱ぎ捨てる。
そこには全身金属のアーマーを着込んだスイフトの姿があった。
これがスイフトの本来の姿だったが、初めて見る者にとっては全身鎧にしか見えないだろう。

「き、汚えぞ! そんなモンを着込んでやがるとはッ!」

銃を取り出しておいて、一体どの口が言うのかと司会者が呆れた。
バッカスは再び銃を構えた。

「こうなったら何発でもお見舞いしてやるぜ!」

バッカスがそう言った矢先。
スイフトは助走無しで大きく宙へ飛び上がった。

高い。
軽く跳んで数メートルの距離を一気に移動する。
ジャンプの頂点で宙返りをすると、スイフトは下降しながらキックを放った。

「出た。生身の人間に食らわすとは、エグいな……」

唯桜が一瞬驚いた顔をした。

パアンッ!

キックを食らったバッカスはその場で破裂した。

「ひいっ!」
「きゃあああっ!」

会場は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。
司会者も腰を抜かしている。

「新生スイフト……。ヤゴスの改造魔人よりもえげつないじゃねえか……」

唯桜が皮肉混じりに呟いた。
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