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本編

フウケンと言う男

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ドウマが席に戻ってきた。
別段落ち込んでいる様な様子は見受けられない。

「済まない。負けた」

ドウマは戻ってくるなり、一言そう言って詫びた。

「いや、二人抜きお疲れ様。こっちはまだ四人も居るからね。気にしなさんな」

ロットはそう言って、ドウマの肩を軽くポンと叩いた。
それとほぼ同時に今度はフウケンが立ち上がった。

「……行ってくる」

一言呟いてフウケンが闘技スペースへと降りて行く。

「お宅のパーティーって、揃いも揃って寡黙だな」

チャコが皮肉混じりに言った。

「ああ。その分僕が喋るからね。バランスは取れてる筈さ」

ロットが笑ってウインクする。
フウケンと入れ替わりに戻ってきたドウマが席に着いた。

「さあ、続いて参ります。勇者ロットと仲間達チームから次鋒、フウケン選手!」

観客席からまた歓声が湧き起こる。
エンリケの一勝で観客の興味も俄然戻ってきた。
フウケンはダブついた大きめの衣装で動き易そうな格好だ。
軽く柔軟運動を繰り返している。

エンリケも呼吸を整えながら集中力を練った。
じっとフウケンを見る。

格闘家だろうか。
戦闘職の様相は感じ取れる。

「では参ります! 中堅戦、開始して下さい!」

恒例の銅鑼が鳴る。

ジャアアアアアアアアアアアアンッ!

エンリケはサーベルをバッと抜いた。
相手が戦闘職なら勝手知ったる相手である。
魔導士とは比べるべくも無かった。

フウケンも歩幅を広く取って低く構える。
両者はスペース上で向かい合って対峙した。

エンリケは、さっきとは打って変わって呼吸を合わせる。
お互いに見つめ合ったまま、円を描いて移動した。

「……互角かな」

チャコが二人を見てそう評した。

「……そうだな。フウケンの武器次第だろうが」

ジンが答える。

エンリケの実力はさっき見た通りである。
フウケンの身のこなし、雰囲気、足運び、目の動き。
こう言う所から実力を推し測るのは戦いでは常套手段である。

おおよそではあるが、二人の実力は五分だろうとジンとチャコは見ていた。

そんな時、フウケンは突然走り出した。
エンリケも呼吸を読んで同時に走り出す。
中央で二人はぶつかった。

サーベルのリーチを活かしてエンリケが突いた。
首を傾けてフウケンがこれをかわす。
傾けた首の横をサーベルが通る。
左手でサーベルを押し退けて右手で中段突きを繰り出す。
今度はエンリケがこれをブロックした。

両者はそのまま通り過ぎる。
間合いが開いてから同時に振り返った。

武器は無いのか。
エンリケはフウケンの武器を探した。
パッと見る限り、武器の様な物は目に付かない。

素手でもかなりの使い手だと言う事は、今のでも解る。
だが流石に素手対サーベルでは、打ち合う毎にサーベルの有利は大きくなっていく。

武器はある筈だ。
エンリケはフウケンの武器を警戒する事を止めなかった。

「……忍びか」
「え?」

珍しく牛嶋が言葉を発した。
思わず美紅が聞き返す。

「動きが暗殺者のそれだな。気配を殺す足運びだ」

牛嶋はそう言って珍しそうにフウケンを見た。
このタイプの男はこの時代では見なかったなと思った。

「でも武器を使わない選手も意外と多いんですね」

ビビ子が言う。
言われてみれば確かにそうだとデストロイヤーゴも納得した。
今もフウケンがサーベルを使うエンリケと素手で互角に戦っている。

「暗殺者は武器にこだわりが無いだけだ。多少の好みは有っても基本的には何でも使うし、何でも武器にする」

素手で殺らなければならない理由や状況が無い限り、武器は必ず使う。
効率的に確実に素早く目的を達成するのが暗殺者だ。
ましてや闘技会の様な所で真面目に素手で戦うメリットなど何も無い。

「……あら本当だわ」

美紅が呆れた様に驚く。

「調べてみたら全身に武器らしき物があるわ。隠し持ってるって訳ね」
「全身に……?」

ビビ子が言葉を失う。

「そう。文字通り全身にね。口許を覆ったマスクから爪先まで選り取りみどりね」

美紅のX線を駆使した特殊な目には、衣服の下に物を隠すのは通用しない。
ビビ子は驚きで目を丸くした。
フウケンにでは無い。
美紅にだ。

そんな事まで詳細に解ってしまうのだ。
自分には理解し得ない未知の力で何でも見透してしまう。

ビビ子にとって美紅は素敵なお姉様であるが、同時に危険な監視対象でもある。
三人の中では最も理性的で、比較的無駄な争いは好まない性格である。

だがこう言う時にその能力を見せ付けられると、やはり危険な存在なのだと言う事を思い出させる。
ビビ子は複雑な思いで闘技スペースの戦いに視線を戻した。

エンリケもフウケンがただの格闘家だ等とは思っていなかった。
あの勇者ロットの仲間達なのだ。
ドウマは食わせ者だったが、コイツはどうなのか。

「……剥いでやるぜ。化けの皮」

エンリケが呟いた。
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