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本編
何だそれ
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ダイスケが担架で運ばれて行く。
会場にざわつきが戻ってきた。
「円月輪……」
エンリケが呟いた。
「円月輪?」
真・五枚看板の紅一点、ハルノーンが尋ねた。
「チャクラムとも言うが、今の投てき武器だ。リング形の剣になっている」
そう言ってエンリケがハルノーンを見た。
「……隙がほとんど無かった」
ハルノーンは真剣な目でドウマを見つめた。
風貌からして格闘家の雰囲気は無い。
だがノーモーションでチャクラムを投げ付けた技量、正確さ、スピード。
どれを取っても驚くべき実力を窺わせる。
「コイツも暗器使いなのか」
ハルノーンが一人ごちる。
「次鋒は俺だ。お前がそこまで心配する必要は無い」
ハルノーンの背後から男が現れて肩をポンと叩いた。
「ヘイジ……」
ハルノーンは振り返ってヘイジを見た。
「お前は副将だ。今から相手に呑まれてどうする」
そう言ってヘイジは闘技スペースへと降りて行った。
「さあ続いて次鋒戦です! 真・五枚看板チームから次鋒、ヘイジ選手!」
司会者に呼ばれてヘイジは手を上げた。
会場から拍手が巻き起こる。
「それでは次鋒戦、始めて下さい!」
ジャアアアアアアアアンッ!
開始を告げると、すぐさま銅鑼が鳴った。
流石にヘイジも警戒している。
すぐに動きは見せない。
背後から帯に差していた武器を取り出して体の前で構えた。
「何だあの武器は。初めて見るな……」
ジンが呟く。
ロットも首をかしげた。
「さあ……僕も初めてだ」
ショートソードよりも短い。
三十センチか四十センチか、そのくらいしか無い。
握り手に鉤(カギ)の様な物が付いているが、最大の特徴は刃が付いていなかった。
尖端も尖っていない。
「剣の類いでは無い様だが」
不思議な武器の形状に会場の目は興味津々である。
「あれ……何ですかねえ」
魔人会の選手席では同じ様な疑問をビビ子が口にしていた。
「十手みたいな武器ね」
美紅が何と無く答えた。
「その物だ。十手だ」
牛嶋がポツリと答えた。
「え……? 本物?」
美紅が牛嶋に尋ねる。
「本物も何も見たまんま十手だ。どう使うつもりかは知らんが」
牛嶋はそう言って再び沈黙した。
「……十手だと? 岡っ引きかよ」
唯桜が鼻で笑う。
闘技スペースではヘイジが十手を構えて、ドウマににじり寄っていた。
それをドウマがじっと見つめている。
ほぼさっきと同じ展開である。
「さっきの奴と違って中々隙を見せないねえ」
ロットが笑いながら髪の毛をくるくると弄ぶ。
どう言う意味の笑いなのかはロットのみぞ知るである。
「あんなアホばっかりじゃバイヤン会もオシマイだろ」
チャコがうんざりした顔で答える。
人材不足でも無ければあんな奴が五枚看板入り出来る訳が無い。
そりゃ退職も強く引き留められる訳だと、今頃納得がいった。
「ヘイジと言ったか。相当警戒しているな」
そう言いながら、ジンが顎をさすった。
「あれじゃ道輪剣は防がれる」
ジンの言葉にロットが反論する。
「道輪剣を警戒している事こそ、ドウマの思う壷なんだよ」
ヘイジが一足一刀の間合いへ入った。
もし道輪剣が発射されても十手で叩き落とされるだろう。
流石にここまで来た選手が、一度見た技をそう何度も食らうと言う事は考え難い。
実際ヘイジも道輪剣は確実に防げると言う自信があった。
その瞬間。
ローブが割れて中から道輪剣が再び撃ち出された。
「無駄だッ!」
待ってましたとばかりにヘイジは道輪剣を叩き落とした。
カシャアアーンッ!
大きな音を立てて道輪剣が地面へと落ちた。
だがドウマは走り寄ると、そのままヘイジの腹部へと短刀を突き刺す。
全くもって呆気ない。
会場も選手席も全てがシーンと静まり返った。
「……何なんだよ。子供の大会かよ」
チャコがまたしても毒づく。
「予備動作無しで飛ぶ道輪剣を叩き落とせるのに、何であんな短刀攻撃を避けられないんだよ。油断し過ぎだろ」
闘技スペースでは崩れ落ちたヘイジの様子を司会者がチェックしていた。
そしてやはり両手を交差させると、戦闘継続不能を判断した。
「この勝負、勝者ドウマッ!」
ドウマの右腕を取って司会者が掲げた。
「ここに居る選手で、アレを避けられない奴は居ないだろう。……これも魔法か」
ジンがロットを見た。
ロットは頷いた。
「恐らくそうだろうね」
「恐らく?」
チャコが聞き返す。
「ドウマがどんな魔法を使ったのかは本人に聞くか、想像するしか無い。だが君の想像通り恐らく魔法だろう。道輪剣を叩き落とさせ安心させる。そしてその隙を突いたんだろうね」
「何の魔法だよ」
チャコが尋ねる。
「さあねえ。さっきも言った通り結局の所、本人に聞くしか無いんだよね。ただ……」
「ただ?」
「金縛りか麻痺か……スローかもね」
魔法ってえげつないな。
チャコがドウマを見た。
会場にざわつきが戻ってきた。
「円月輪……」
エンリケが呟いた。
「円月輪?」
真・五枚看板の紅一点、ハルノーンが尋ねた。
「チャクラムとも言うが、今の投てき武器だ。リング形の剣になっている」
そう言ってエンリケがハルノーンを見た。
「……隙がほとんど無かった」
ハルノーンは真剣な目でドウマを見つめた。
風貌からして格闘家の雰囲気は無い。
だがノーモーションでチャクラムを投げ付けた技量、正確さ、スピード。
どれを取っても驚くべき実力を窺わせる。
「コイツも暗器使いなのか」
ハルノーンが一人ごちる。
「次鋒は俺だ。お前がそこまで心配する必要は無い」
ハルノーンの背後から男が現れて肩をポンと叩いた。
「ヘイジ……」
ハルノーンは振り返ってヘイジを見た。
「お前は副将だ。今から相手に呑まれてどうする」
そう言ってヘイジは闘技スペースへと降りて行った。
「さあ続いて次鋒戦です! 真・五枚看板チームから次鋒、ヘイジ選手!」
司会者に呼ばれてヘイジは手を上げた。
会場から拍手が巻き起こる。
「それでは次鋒戦、始めて下さい!」
ジャアアアアアアアアンッ!
開始を告げると、すぐさま銅鑼が鳴った。
流石にヘイジも警戒している。
すぐに動きは見せない。
背後から帯に差していた武器を取り出して体の前で構えた。
「何だあの武器は。初めて見るな……」
ジンが呟く。
ロットも首をかしげた。
「さあ……僕も初めてだ」
ショートソードよりも短い。
三十センチか四十センチか、そのくらいしか無い。
握り手に鉤(カギ)の様な物が付いているが、最大の特徴は刃が付いていなかった。
尖端も尖っていない。
「剣の類いでは無い様だが」
不思議な武器の形状に会場の目は興味津々である。
「あれ……何ですかねえ」
魔人会の選手席では同じ様な疑問をビビ子が口にしていた。
「十手みたいな武器ね」
美紅が何と無く答えた。
「その物だ。十手だ」
牛嶋がポツリと答えた。
「え……? 本物?」
美紅が牛嶋に尋ねる。
「本物も何も見たまんま十手だ。どう使うつもりかは知らんが」
牛嶋はそう言って再び沈黙した。
「……十手だと? 岡っ引きかよ」
唯桜が鼻で笑う。
闘技スペースではヘイジが十手を構えて、ドウマににじり寄っていた。
それをドウマがじっと見つめている。
ほぼさっきと同じ展開である。
「さっきの奴と違って中々隙を見せないねえ」
ロットが笑いながら髪の毛をくるくると弄ぶ。
どう言う意味の笑いなのかはロットのみぞ知るである。
「あんなアホばっかりじゃバイヤン会もオシマイだろ」
チャコがうんざりした顔で答える。
人材不足でも無ければあんな奴が五枚看板入り出来る訳が無い。
そりゃ退職も強く引き留められる訳だと、今頃納得がいった。
「ヘイジと言ったか。相当警戒しているな」
そう言いながら、ジンが顎をさすった。
「あれじゃ道輪剣は防がれる」
ジンの言葉にロットが反論する。
「道輪剣を警戒している事こそ、ドウマの思う壷なんだよ」
ヘイジが一足一刀の間合いへ入った。
もし道輪剣が発射されても十手で叩き落とされるだろう。
流石にここまで来た選手が、一度見た技をそう何度も食らうと言う事は考え難い。
実際ヘイジも道輪剣は確実に防げると言う自信があった。
その瞬間。
ローブが割れて中から道輪剣が再び撃ち出された。
「無駄だッ!」
待ってましたとばかりにヘイジは道輪剣を叩き落とした。
カシャアアーンッ!
大きな音を立てて道輪剣が地面へと落ちた。
だがドウマは走り寄ると、そのままヘイジの腹部へと短刀を突き刺す。
全くもって呆気ない。
会場も選手席も全てがシーンと静まり返った。
「……何なんだよ。子供の大会かよ」
チャコがまたしても毒づく。
「予備動作無しで飛ぶ道輪剣を叩き落とせるのに、何であんな短刀攻撃を避けられないんだよ。油断し過ぎだろ」
闘技スペースでは崩れ落ちたヘイジの様子を司会者がチェックしていた。
そしてやはり両手を交差させると、戦闘継続不能を判断した。
「この勝負、勝者ドウマッ!」
ドウマの右腕を取って司会者が掲げた。
「ここに居る選手で、アレを避けられない奴は居ないだろう。……これも魔法か」
ジンがロットを見た。
ロットは頷いた。
「恐らくそうだろうね」
「恐らく?」
チャコが聞き返す。
「ドウマがどんな魔法を使ったのかは本人に聞くか、想像するしか無い。だが君の想像通り恐らく魔法だろう。道輪剣を叩き落とさせ安心させる。そしてその隙を突いたんだろうね」
「何の魔法だよ」
チャコが尋ねる。
「さあねえ。さっきも言った通り結局の所、本人に聞くしか無いんだよね。ただ……」
「ただ?」
「金縛りか麻痺か……スローかもね」
魔法ってえげつないな。
チャコがドウマを見た。
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