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本編

メデューサは絶世の美女

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一行はその足でそのまま恐山へと向かう事にした。
時間を掛けた所でやる事に違いが出る訳でも無い。
やがてヤーゴがやって来た。
防寒具を借りてきたらしい。
女だったら出来た嫁だったろうにと唯桜は思った。早速五人は恐山へと向かう。

灰色の山肌はほぼ石ばかりである。
かつてはともかく、今では本当に何も無い。
九百メートルにも充たない山である。
しかし山頂に近付くに従って気温が下がり始めた。
例の氷結のドレスの影響か。
石が剥き出しの山肌は次第に霜がおり始め、氷が多くなってくる。

万年雪と言うよりも万年氷である。
厚い氷に覆われ氷柱が建ち並ぶ。
ここだけ突然別世界である。
ここで五人は防寒具を身に付けた。
改造人間である三人は本来こんな物は必要としない。
しかし寒さを感じない訳では無かった。
好き嫌いの問題である。

大体、唯桜は暑さが嫌でわざわざこんな所まで来たのだ。
一方美紅は寒い方が苦手だ。
同じ改造人間でもこれだけ違う。
単純に唯桜は暑がり、美紅は寒がりだと言う話である。

モコモコに着膨れた美紅を見て唯桜がからかう。

「蛇は寒いの苦手だしな。冷血動物」

美紅は唯桜を睨んだがそれ以上は無視した。
寒くてそれどころでは無い。
一方唯桜は元気だ。
寒いのは割合に平気な質である。

何度も言うが改造人間には、暑さ寒さは本来影響など無い。
単に本人の好き嫌いである。
超高温、超低温、超高気圧、超高水圧、真空の全てで活動可能であり、活動制限はほぼ無い。
牛嶋などは気の持ち様だと割り切って、暑くても寒くても騒いだりしなかった。
唯桜に言わせれば牛嶋の辛抱強さはマゾらしいが。

「犬は歓び庭駆け回り、だしね」

美紅が言った。
精一杯の皮肉である。
口では絶対に唯桜に負ける事の無い美紅が、寒さの影響でここまで大人しくなるとは唯桜にも意外だった。

五人は山頂付近に次第に近付いた。
風景はほぼ氷原である。
降り注ぐ陽の光は真夏の物なのに、気温は氷点下である。
明らかに異常だ。
日中に来て正解だったなと美紅は思った。
夜なら気温はこんな物では無いだろう。

「メデューサは何処に居るんだ。氷結のドレスも何処にあるんだよ」

唯桜が辺りを見回した。
山の斜面に厚い氷が張り巡らされ、大きな岩が無数に点在した。
そこかしこに氷柱が立ち、視界は良好ながら見通しは最悪だ。
ちょっとしたジャングルである。

「美紅。何か見えねえのか」

唯桜が尋ねた。
美紅もさっきから探っているがそれらしい反応は見当たらない。

「駄目ね。何も居ないわ」

どういう事なの。
この恐山に住み着いて居るのでは無いの。
美紅は更に辺りを探った。

五人はもっと遠くへと歩いた。
壊された地蔵が途中に何体もあった。
全て氷の中に閉じ込められている。

「地蔵の氷り漬けかよ。ゾッとしねえな」

唯桜が呟く。
その時ビビ子が何かを見付けた。
なんだろう?

ビビ子は見付けたそれを確認するべく近付いた。
氷の塊に近付き中を覗きこむ。

「うひゃあ!」

ビビ子は思わず変な声が出た。
四人がビビ子を探して振り返る。

「どうしたの?」

美紅が真っ先にビビ子の側へと駆け付けた。
ビビ子は尻餅をついて目の前の氷塊を見上げている。
美紅もその視線を追って氷塊の中を見た。

「これは……人?」

若い男性が氷の中に閉じ込められていた。
手には盾と剣を持っている。

しかし。

「これ石像だわ」

美紅は良く見てみた。
一見人間の様に思えたが、精巧に作られた石像だった。
間違い無い。美紅の各種センサー類は石である事を示している。

「なんでえ。今度は石像の氷漬けかよ」

唯桜がため息をついた。

「……メデューサと言うのは相手を石にするのでは無かったのか」

牛嶋が氷解を眺めながら言った。
確かに石には違いなかったが、それにしても精緻に過ぎる。

「じゃあ……これ、石になった人間?」

美紅がまじまじともう一度見る。
何回調べても、反応はただの石だ。
体組織まで完全に石に変わってしまうとは。
元は人間であった痕跡も無い。
タンパク質が完全に石に変わっているのか。
美紅は信じられなかった。

「取り敢えずコイツが息子なのか?」

唯桜が言った。確かにそこは解らない。
以前に敗れた討伐者なのかも知れない。

「何をしている」

突然刺すような声がした。
五人が振り返ると山の上の方、巨大な岩影の側に人が立っている。

「人間?」
「こんな所にかよ」

美紅と唯桜が交互に疑問を口にした。

「すげえ美人」

ヤーゴが思わず口にする。
しかしそれも納得である。
透き通る様な白い肌に、栗色の髪が軽く波打つように肩から胸へと降りていた。
胸も背中も大きく開いており、美しい柔肌を惜し気も無く晒している。

男が見れば誰が見ても美人だと言うだろう。
美人の見本だとして教科書に載せたいくらいの美人である。

「いくら何でも薄着過ぎるだろう。何度だと思ってやがる」

氷点下の地で流石にそれは無いと思わせる格好だ。

「こりゃあ鬼嫁のお出ましか」

唯桜が不敵に笑った。
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