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本編

任せろ必ずぶっ殺す

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唯桜は両手をポケットに突っ込んだままの姿勢でテラール王を見ていた。
王としての立場、父親としての立場、そして夫としての立場。
それらが心の中で葛藤しているのがテラール王の眼光に現れていた。
威厳に充ちつつも、苦悩と悲哀にも充ちている。

ビビ子もそれを感じた。
何と言う哀しい目をしているのだろう。
こんなに立派な王様なのに。

今更ながらにメデューサに対するテラール王の苦しみが理解出来た。
怒りと憎しみを覚えられたらどんなに楽だっただろうか。
妻がメデューサに変わってしまったのでは自ら倒す事はもちろん、他人が倒しに行く事も心中穏やかでは無い筈だ。

しかしそれでも、王としての立場はそれを許しはしない。
沢山の民の命と暮らしを守る責任が王にはある。
ルドルの様な他人の生命を何とも思わない領主が居る一方で、テラール王の様な民衆の為に心を鬼にして愛する妻を倒さんと決意する領主も居る。

ビビ子は何としてもテラール王の力になりたいと思った。

「お姉様。あの、私……」

ビビ子が美紅に何かを言おうとした。
しかし美紅は口に人指し指を立ててビビ子を制した。

「今は待ちなさい」

美紅は一言それだけをビビ子に言った。
少し微笑んでいる。
ビビ子は訳が解らなかったが、取り敢えず美紅に従った。

牛嶋もヤーゴでさえも、口を挟まなかった。
全員が唯桜の反応を見ているといった雰囲気だ。
ビビ子は唯桜を見た。
この野蛮で短気な男の一体何を期待しているのか。

「……なるほどねえ」

唯桜がやっと言葉を発した。

「で、アンタは俺達に何を望むんだ?  本当にメデューサをぶっ殺して良いんだな」

テラール王が、兵士たちが、宰相が。
全員が唯桜を凝視した。
その言葉を待っていたと同時に恐れてもいた。

ハッキリと突き付けられる。
この男は殺る。きっとメデューサを倒すだろう。
それはつまり妻は絶対に助からない、必ず殺されるであろうと言う現実だ。

しかし、テラール王はその現実から目を逸らす事は無かった。素早い返事だった。

「もちろんだ、宜しく頼む」

威厳に充ちた王はキッパリと断言した。
唯桜はテラール王の目を見た。
この男の目には覚悟がある。
自分の死よりも遥かに辛い死を覚悟している。
愛する女の死だ。
王としてのテラールの事には興味が無かったが、男としてのテラールには好感を持った。

「……良いだろう。メデューサはキッチリ俺達がぶっ殺してやる。その替わり氷結のドレスは探し出して頂くぜ。それで良いな」

テラール王は、ああと言った。

「オーケー、決まりだ。後の細けえ事ぁコイツと詰めてくれ」

唯桜はそう言ってヤーゴを顎で示した。
それだけ言うと唯桜はくるりと踵を反して謁見の間から出て行った。

美紅はビビ子を見た。
そして両手を広げると肩をすくめた。
結局話はまとまってしまった。
あんなまとめ方は聞いた事も無い。
ビビ子は目をパチクリさせた。

「その方がお前達の代表では無かったのか?」

テラール王はヤーゴに尋ねた。

「まあ、何と申しましょうか……。折衝事はやりますが、決定権はあの者が持っておりまして」

ヤーゴが説明する。
テラール王は首を捻った。

「ではあの者は?」
「はあ。社長です」

ヤーゴが頭を掻きながら答えた。
テラール王は唯桜が出て行った扉を見た。

「随分と変わった男だな」

テラール王が呟いた。

「ですが、彼はやると言ったら必ずやります。それはお約束できます」

そう言ってヤーゴは頭を下げた。
テラール王は少し間を置いてから、そうかと答えた。

ヤーゴを除く三人が城の外へ出ると、唯桜がバイクに跨がって山を見ていた。
恐山である。
山頂付近にはテラール王の言う様に、確かに万年雪が積もっていた。

「早速行くのか」

牛嶋が唯桜に言った。

「俺はそれでも構わんが、ビビ子、おめえはどうする」

唯桜がビビ子に尋ねた。
ここまで来て行かない筈が無かった。
もちろん行きますよ、と答える。

当然ビビ子のその言葉に偽りは無かった。
しかし、相手はメデューサである。
有名過ぎるモンスターだ。
討伐はそう簡単ではあるまい。

「疑問点があるわ」

美紅が言った。

「どうして王妃がメデューサなんかに変わったのかしら」

確かにそれは疑問だった。
しかしこの手の知識に乏しい唯桜達には、余計に解る筈も無かった。

「それとメデューサと言えば石化能力です。詳しい事は謎ですが、伝説では姿を見た者は恐怖で石になると言う説と、メデューサの目を見ると石になると言う二つの説がある様です」
「どっちにしろ厄介な相手ね」

美紅が呟く。

「何処がだよ」

唯桜が言った。

「この俺が恐怖で石になんかなる訳ねえだろ」

あまりに馬鹿馬鹿しい答えだったが、唯桜が言うと説得力があった。
怖いもの知らずが服を着て歩いている様な男である。
恐怖など感じる神経がある筈が無い。

「でも幽霊怖がってたじゃない」

美紅が痛い所を突いてきた。

「馬鹿野郎。メデューサは殴れるだろうが。問題ねえよ」

どういう理屈なのか恐怖の基準が良く解らなかったが、取り敢えず私は野郎じゃないとだけ美紅は反論した。
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