ドグラマ3

小松菜

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本編

無理が通れば道理が引っ込む

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「ちくしょう! 解ってるよ。だが、どうやったら出られるのか解らねえ!」

牛嶋の叫びを聞いて唯桜は琥珀の中で一人声を荒らげた。
力尽くではどうやら出られないらしい。
爪も砲撃も一斉掃射も、全て試したが傷一つ付けられない。

「違う空間ってなどう言う意味だ? 余計帰れないんじゃねえのか?」

唯桜はゲニウスの言葉を反芻した。
しかし頭脳労働は唯桜の最も苦手とする所だ。

「手品じゃあるめえしよ。手品だって種があらあ。けどこいつは……」

唯桜は辺りを見回した。
別に変わった所は何も無い。
ただ見えない壁に囲まれていて、自分が小さくなっていると言う点を除けば。

目を向けると、牛嶋がゲニウスを背にして一人で戦っているのが見える。
唯桜の目から見ても鬼神の如き戦いぶりだ。
刀一本で守護精霊四体と互角以上に渡り合っている。
ゲニウスを護ると言う役目が無ければ、瞬く間に十体全て斬り伏せそうな勢いである。
実際にはバイアーが居る限り無限に再生し続けるので言うほど簡単では無いだろうが。

唯桜はどうする事も出来ない自分に苛立ちを感じていた。
チッと舌打ちをすると顔を背ける。

キラッ

何かが視界に入った。
唯桜はじっと一点を見つめた。

キラッ

何かが光っているのが見える。
唯桜の微妙な立ち位置によって、光が見えたり見えなかったりする。
何かが反射している様な光り方だ。

数メートル先にガラス片の様な物が地面に刺さっている。
確かバーボン・ラチェットが射ち出したガラス片だ。
唯桜がかわした破片があそこへ刺さったのだ。

「……あれに当たったから閉じ込められたのか」

あれは対象を閉じ込める攻撃だったのか。
唯桜は腹立ち紛れに腕から砲撃を放った。

ドオーンッ!

火炎と爆風が起きる。
見えない壁に当たって爆発したのだ。

「くそったれ!」

唯桜が毒づく。
何気なく例のガラス片を見ると、そこにも爆炎が見えた。

「ん?」

何故こっちの爆発があんな離れたガラス片に映るのか。
しかもこっちは小さな琥珀サイズに縮んでいるのだ。
それよりも大きめなガラス片一面に爆発が映し出されるのは妙に思えた。

ドオーンッ!

唯桜はもう一度同じ様に砲撃を放った。
また見えない壁に当たって爆発が起きる。
やはり、向こうのガラス片にも爆発が映っているのが見える。

「……どう言うこった?」

反射している?
しかし位置的にも距離的にも、何よりサイズ的におかしい。

『その琥珀は単にその空間での君の様子を見る為だけのモニターみたいな物だ』

ゲニウスは確かそう言っていた。
モニター?
ここの景色があのガラス片に映っている?
モニターだから?

と言ってもカメラがある訳では無いだろう。
それらしき物は見当たらない。
多分、ゲニウスが言う様な科学的な何かとは違うのだ。
魔法の良く解らない不思議な理屈をゲニウスは科学的なアプローチで理解しようとしているのだ。

間違っている訳では無いが、正解と言う訳でも無い。
多分そんな所だろう。
しかし例えそうであっても、一目でここまで謎に肉薄するとは流石に超天才ゲニウスである。
唯桜は改めてゲニウスに心酔した。

「流石はオヤジだ。後は俺が……」

そう言ってみたものの、唯桜の頭で続きが解ける筈も無い。

「どう言う理屈かは知らねえが、向こうに映像が行ってるって事は繋がってるって事なのか? それとも……」

唯桜はブツブツ言いながら、何かを確認する様に辺りをうろついた。
動物園の熊も斯くの如しである。

ある場所で唯桜は足を止めた。
向こうのガラス片に自分の後ろ姿が映ったからだ。

「この辺か」

唯桜は後ろを振り向いた。
今、ガラス片には自分の正面姿が映っている筈である。

唯桜は手を伸ばして、探る様に歩く。

ピタ

見えない壁に手が触れる。
いつの間にか、唯桜はガラス片の方へ移動している。

「何となく解ってきたぜ。ルールがよ」

ハッキリ言えば解ったつもりになっているだけであったが、答えさえ合っていれば途中の式などどうでも良いのが唯桜と言う男である。

「反射だな? 反射して違う所へ閉じ込めているんだ。なら反射を逆に辿って入り口まで戻ってやる」

だがここからどうした物か。
この位置からは大して何も見えない。
一番初めにかわしたガラス片が少し離れた場所に刺さっているのが見えるくらいだ。

ここは、ガラス片の向き的にゲニウス達もナイーダ達も誰も見えない。

「あのガラスへの道を探るか……」

唯桜は再びガラス片を見ながら辺りを歩き回る。
そしてすぐに見つかった。
要領を得れば難しくは無かった。

さっきと同じ様に辺りを探る様に歩く。
手に見えない壁の感触がある。

「出来たぜ。ここからなら辺りも良く見える」

唯桜は移動に成功した。
今度はガラス片の向き的に野次馬達も良く見えた。

「こっからどうするか……」

唯桜は腕を組んで考えた。
特に先々まで考えて行動している訳では無いのが良く解る。
行き当たりばったりなのだ。

「ええいっ! 何とか破れねえのか、コイツ!」

唯桜は再び無策にも、壁に向かって砲撃を繰り返した。
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