ドグラマ3

小松菜

文字の大きさ
上 下
98 / 100
本編

増殖する守護精霊

しおりを挟む
地面を転がってから超低空でダッシュした。
這う様な低さでバイアーに詰め寄る。

ボシュッ!

再び妙な音がした。
唯桜は横に転がる。
その場所に大きめのガラス片が突き刺さった。

背後から新手の守護精霊が唯桜を狙っている。
それは解っている。
だが、今はとにかくバイアーから仕留めなければ終わらない。

唯桜は転がりつつも動きを止める事は無かった。
そのままバイアーへと近付く。 

「後で相手してやる。ちょっと待ってろ」

唯桜はそう捨て台詞を吐いてバイアーに飛び掛かった。

ガンッ!

突然、唯桜は頭をぶつけた。
何かにぶつかった事は瞬時に理解したが、何にぶつかったのか唯桜は目を白黒させた。

「ってえ、何だ?」

頭を振って唯桜は辺りを見回す。
だが、何も見当たらない。

「? ?」

唯桜は後ろを振り返った。
ドン・ロッゴがこっちを見ている。

「……何だったんだ?」

唯桜は急いで気を取り直すと、再びバイアーへ飛び掛かった。

ガンッ!

「……ってえなあっ! 何なんだよ! 誰だこの野郎、出てきやがれ!」

唯桜は再び頭をぶつけてキレた。
と言っても相手も解らない、原因も解らない、誰に対してキレたら良いのか解らずにキレた。

唯桜は手を伸ばしてみた。
何か冷たい物に手が触れる。
平らで硬い。目に見えないが透明な壁の様な物がある。

「何だこりゃ?」

唯桜はコンコンとノックしてみる。
硬い。材質は解らないが結構な硬度だろう。

掌で触れたまま横に歩いた。
まさしく壁である。
横にも広がっている。

ガンッ!

調子に乗って横に歩いたら、また壁にぶつかった。

「……いい加減にしろよ」

横にも壁があった。
これはひょっとして。
唯桜は確認するべく、腕を向けると上腕からエネルギー弾を発射した。

ドオーンッ!
ドオーンッ!
ドオーンッ!

あらゆる方向に向けて撃ってみたが、どれも見えない壁に阻まれている事が解る。

「……囲まれてるな」

何故だか解らないが一瞬で四方を囲まれている。
ご丁寧な事に天井までもだ。
ドン・ロッゴが笑う。

「大神唯桜。遂に捕まえたぞ」
「何だと?」
「ふふ。解らんか。バーボン・ラチェットの能力だ、お前も琥珀に閉じ込められたのだ」

唯桜は視界が低くなっていくのに気付いた。
周りが段々と巨大に感じる。

「これは……!?」

やがて小さな琥珀が地面に転がった。
そしてその中に唯桜の姿があった。

「……おい、唯桜。遊んでいる場合か、真面目にやれ」

牛嶋が言う。

「ははは。君の声は彼には聞こえるが、彼の声はこちらには聞こえない。返事を期待するのは無理だ」

ドン・ロッゴが勝ち誇った様に笑う。
よほど自分の有利に自信があるのだろう、笑い声は一段と大きかった。

「だから油断は駄目だって言ったのに」

ゲニウスが、ぷうっと頬を膨らませた。

「……ヤーゴはこうやって閉じ込められたのか」

唯桜は他人事の様に感心した。
しかし、どうした物か。

「まったく……唯桜、聞こえるかい! あのねえ、本当に閉じ込められる訳無いだろう。琥珀ってのはガラスのカプセルじゃないんだ。セメント漬けみたいな物だ。君は動けるだろう? 本当に琥珀に閉じ込められたなら動ける筈は無いんだ」

ゲニウスが大声で唯桜に呼び掛ける。

「人間をそんな小さなサイズに縮めて閉じ込めるなんて嘘だ。まやかしだ。本当は閉じ込められてなんか無いぞ! 君は多分、違う空間に送り込まれてるだけだ。その琥珀は単にその空間での君の様子を見る為だけのモニターみたいな物だ」

ゲニウスの声は唯桜に届いていた。
しかし、そんな事を言われても唯桜にはピンとこない。

「なるほど……解らん」

唯桜は腕を組んでそう呟く。
ドン・ロッゴでさえ能力の仕組みが何であるかなど知らない。
ただ結果だけを見て、こう言う能力なのだと理解するだけである。

「……あの小僧。やはり放っておいて良い存在では無いな」

ドン・ロッゴはそう言うと四体目の守護精霊を召喚した。
ドン・ロッゴの前に新たな人影が現れる。

「ピジョンよ、そのガキを始末しろ」

全身灰色の新たな人影は、実体化するとゲニウスに向かって近付いた。

「!」

牛嶋がそれに気付く。
グラドスを無視してピジョンを追い掛ける。

「お屋形様!」

牛嶋がピジョンの肩に手を掛けて引き戻す。
ピジョンは振り向き様に牛嶋を殴り付ける。

ガシイッ!

だが、並みのパンチでは牛嶋を倒す所か怯ませる事も出来ない。
牛嶋は蚊に刺されたほども感じていない。

「むん!」

牛嶋は構わずピジョンを抱えあげると、後ろへ放り捨てた。

ドン、ゴロゴロ

ピジョンは地面に倒れて転がる。
だが、起き上がりもせずに顔を上げてジイッと牛嶋を見つめている。

牛嶋は何か居心地の悪さを感じた。

「何だ、こいつは……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...