ドグラマ3

小松菜

文字の大きさ
上 下
89 / 100
本編

通りゃんせ

しおりを挟む
地下駐車場は三階までである。
これ以上何処へ行くのか。

「ここから上へ上がる」

ネルソンが足を止めて言う。
崩落した後、手付かずになっている瓦礫の山がそこにあった。

「ここって……何処だよ」

唯桜が辺りを見回した。

「何処見てるんだ。ここだっつってんだろ」

ネルソンが目の前の瓦礫の山を顎で指した。

「? 何だてめえ、おちょくってんのか?」

唯桜が眉間にシワを寄せる。

「そうじゃねえ。この瓦礫の中に本来入り口がある。その奥だ」
「ドン・ロッゴが使ってる道を教えろよ。こんなルート使えねえじゃねえか」
「んなモンねえよ」
「……てめえ殺すぞ。俺はナゾナゾなんか嫌いなんだよ。早くしろ」

ネルソンは溜め息を吐いた。

「どうしてお前はそう気が短いんだ。ドン・ロッゴが見付からねえ理由がこれなんだよ」
「るせえ。てめえに気が短いなんて言われたかねえや……で、どう言うこった?」

ネルソンは瓦礫の山に足を掛けた。

「ドン・ロッゴも守護精霊の契約者だ。俺達の誰よりも強力なな。大体契約した精霊の能力ってのは限定的な物なんだが、ドン・ロッゴのは規格が違う」
「規格が違う?」
「コンタを覚えてるだろう。アイツの能力はかなり強力だ。何せ七つの場所に空間を繋げる力を持っている。ま、そのどれかは本人にも選べないらしいが……お前も味わっただろう」

あれか。
唯桜はコンタの能力により宇宙空間に追放された事を思い出した。
ゲニウスや美紅、牛嶋、ビビアンの協力により何とか帰還できたが、確かにとんでもない能力だ。

「あれはおめえ、俺じゃ無かったら宇宙空間に出た時点で死んでるぞ」

ネルソンが笑う。

「実に残念だ」
「てめえ……」
「ははっ。まあ、お陰で今お前の力を宛に出来る訳だから、結果オーライだ」
「……まだ、ここを通る話が済んでねえぞ」

唯桜は舌打ちしながら話の先を促した。

「ああ。あのコンタでさえドン・ロッゴの能力には及ばねえ。それだけドン・ロッゴの能力は規格外だと言う事だ。まあ、そもそもコンタは戦闘向きな性格じゃないから俺達の中では格下扱いだったがな」

ネルソンはそう言って瓦礫の山を足で蹴飛ばした。

「これをお前にどかして貰いたい。でなければドン・ロッゴには辿り着けん」
「ドン・ロッゴはどうやってここを通ってるんだ」
「……すり抜ける」
「何?」
「すり抜けるんだよ。幽霊みたいにスーッとな。だから何処でも通れる。ドン・ロッゴに行けない場所は無い」
「……マジかよ。幽霊は勘弁しろよ」

唯桜は唯一と言っていい程苦手な物がある。
それが幽霊だった。

「殴れねえ奴はちょっと……」
「まさかマジで怖いのか? ぷっ、ははは! こいつは傑作だ。まさか幽霊が怖いとはな!」
「やかましいっ! このくらいてめえでどかせば良いじゃねえか! てめえも有るだろ守護幽霊」
「……守護精霊だ。俺にはもう無い」
「無い?」

ネルソンが掌を見せた。

「見ろ、指輪が無い。あれが契約者の証だ。さっきの話で合点がいったぜ。俺はいっぺん死んだ。だから偽物の俺には指輪が無いって訳だ」

ネルソンが自嘲気味に鼻で笑った。

「何で無えのか不思議だったんだが、これでハッキリした。俺は俺じゃねえ、だからそれを知る為にドン・ロッゴに会わねばならねえ。だがこの先はドン・ロッゴしか通れねえのさ」

なるほど。ドン・ロッゴは誰も信用していないって訳だ。
ネルソンでさえ自分には近付けない。
指令はさっきのバスの中までドン・ロッゴが出向いてしてるのだろう。

「へっ。ボスのくせに気も小せえ、部下の信用も無えわでクソみてえな野郎だぜ」
「だが、馬鹿強えぞ。正直お前でも勝てるか解らん」
「冗談言うな。俺は誰にも負けねえ。オヤジの野望を俺が何としても叶えさせるんだからな!」

唯桜はそう言いながら瓦礫の山をヒョイヒョイとどかし始めた。

「相変わらずスゲエ馬鹿力だな」
「うるせえよ」
「……お前のトコのボスの野望ってのは、何なんだ?」
「世界征服だ」
「は?」
「世界征服だよ! 何度も言わせんな」

ネルソンは目を丸くした。

「本気で言ってんのか……」
「たりめえだろ。オヤジがやるって言ってるんだ、俺が無理ですなんて言う訳無え。もし無理なら俺が何とかするまでよ」

唯桜は話ながら、事も無げに巨大なコンクリート片を左右にどけていく。
改造人間のパワーを持ってすれば、このくらい造作もない。
まるで重機である。

「……にわかには信じられんが、お前なら本気だろうなと思うぜ」
「本気だっつーの」
「まあ、それは良いさ。国内だけならそんな事も言えるだろう……日本の外はもっとヤバイ事になってるがな」

唯桜はそれ以上返事をしなかった。
唯桜にとってはどうせ結論の出ている話題である。
相手が何と言おうと関係が無かった。

「ほれ、これで通れるだろ」

そこにはイビツに歪んだ防火扉が有った。
ネルソンが開けようと取っ手を引く。

「……くっ! こいつは」

びくともしない。
ドアが枠ごと歪んでいるのだ。
そう簡単には開かないのは明白だった。

「まさかこんな事になってるとはな……おい、開けられるか?」
「てめえ、誰に言ってんだ」

唯桜は取っ手を引っ張った。

ギギ……バキインッ!

簡単に取っ手が千切れた。

「おい! 何て事しやがる、もう開けられねえじゃねえか!」

ネルソンが慌てる。

「いちいちうるせえな、開けりゃ良いんだろ」

唯桜はドア枠の隙間に指を無理やり差し込んだ。

メキ……メキメキッ!

ドアが更に歪みを増していく。

ギイ……イイイイ……イ

ドアが開くと言うよりも、引き剥がされると言った方が正確だろう。
くの字に曲がった扉が枠から引き剥がされた。
頑丈な防火扉が原型も留めていない。

「オラ、行くぞ」

唯桜はそう言うと躊躇無く中へと押し入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...