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本編
通りゃんせ
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地下駐車場は三階までである。
これ以上何処へ行くのか。
「ここから上へ上がる」
ネルソンが足を止めて言う。
崩落した後、手付かずになっている瓦礫の山がそこにあった。
「ここって……何処だよ」
唯桜が辺りを見回した。
「何処見てるんだ。ここだっつってんだろ」
ネルソンが目の前の瓦礫の山を顎で指した。
「? 何だてめえ、おちょくってんのか?」
唯桜が眉間にシワを寄せる。
「そうじゃねえ。この瓦礫の中に本来入り口がある。その奥だ」
「ドン・ロッゴが使ってる道を教えろよ。こんなルート使えねえじゃねえか」
「んなモンねえよ」
「……てめえ殺すぞ。俺はナゾナゾなんか嫌いなんだよ。早くしろ」
ネルソンは溜め息を吐いた。
「どうしてお前はそう気が短いんだ。ドン・ロッゴが見付からねえ理由がこれなんだよ」
「るせえ。てめえに気が短いなんて言われたかねえや……で、どう言うこった?」
ネルソンは瓦礫の山に足を掛けた。
「ドン・ロッゴも守護精霊の契約者だ。俺達の誰よりも強力なな。大体契約した精霊の能力ってのは限定的な物なんだが、ドン・ロッゴのは規格が違う」
「規格が違う?」
「コンタを覚えてるだろう。アイツの能力はかなり強力だ。何せ七つの場所に空間を繋げる力を持っている。ま、そのどれかは本人にも選べないらしいが……お前も味わっただろう」
あれか。
唯桜はコンタの能力により宇宙空間に追放された事を思い出した。
ゲニウスや美紅、牛嶋、ビビアンの協力により何とか帰還できたが、確かにとんでもない能力だ。
「あれはおめえ、俺じゃ無かったら宇宙空間に出た時点で死んでるぞ」
ネルソンが笑う。
「実に残念だ」
「てめえ……」
「ははっ。まあ、お陰で今お前の力を宛に出来る訳だから、結果オーライだ」
「……まだ、ここを通る話が済んでねえぞ」
唯桜は舌打ちしながら話の先を促した。
「ああ。あのコンタでさえドン・ロッゴの能力には及ばねえ。それだけドン・ロッゴの能力は規格外だと言う事だ。まあ、そもそもコンタは戦闘向きな性格じゃないから俺達の中では格下扱いだったがな」
ネルソンはそう言って瓦礫の山を足で蹴飛ばした。
「これをお前にどかして貰いたい。でなければドン・ロッゴには辿り着けん」
「ドン・ロッゴはどうやってここを通ってるんだ」
「……すり抜ける」
「何?」
「すり抜けるんだよ。幽霊みたいにスーッとな。だから何処でも通れる。ドン・ロッゴに行けない場所は無い」
「……マジかよ。幽霊は勘弁しろよ」
唯桜は唯一と言っていい程苦手な物がある。
それが幽霊だった。
「殴れねえ奴はちょっと……」
「まさかマジで怖いのか? ぷっ、ははは! こいつは傑作だ。まさか幽霊が怖いとはな!」
「やかましいっ! このくらいてめえでどかせば良いじゃねえか! てめえも有るだろ守護幽霊」
「……守護精霊だ。俺にはもう無い」
「無い?」
ネルソンが掌を見せた。
「見ろ、指輪が無い。あれが契約者の証だ。さっきの話で合点がいったぜ。俺はいっぺん死んだ。だから偽物の俺には指輪が無いって訳だ」
ネルソンが自嘲気味に鼻で笑った。
「何で無えのか不思議だったんだが、これでハッキリした。俺は俺じゃねえ、だからそれを知る為にドン・ロッゴに会わねばならねえ。だがこの先はドン・ロッゴしか通れねえのさ」
なるほど。ドン・ロッゴは誰も信用していないって訳だ。
ネルソンでさえ自分には近付けない。
指令はさっきのバスの中までドン・ロッゴが出向いてしてるのだろう。
「へっ。ボスのくせに気も小せえ、部下の信用も無えわでクソみてえな野郎だぜ」
「だが、馬鹿強えぞ。正直お前でも勝てるか解らん」
「冗談言うな。俺は誰にも負けねえ。オヤジの野望を俺が何としても叶えさせるんだからな!」
唯桜はそう言いながら瓦礫の山をヒョイヒョイとどかし始めた。
「相変わらずスゲエ馬鹿力だな」
「うるせえよ」
「……お前のトコのボスの野望ってのは、何なんだ?」
「世界征服だ」
「は?」
「世界征服だよ! 何度も言わせんな」
ネルソンは目を丸くした。
「本気で言ってんのか……」
「たりめえだろ。オヤジがやるって言ってるんだ、俺が無理ですなんて言う訳無え。もし無理なら俺が何とかするまでよ」
唯桜は話ながら、事も無げに巨大なコンクリート片を左右にどけていく。
改造人間のパワーを持ってすれば、このくらい造作もない。
まるで重機である。
「……にわかには信じられんが、お前なら本気だろうなと思うぜ」
「本気だっつーの」
「まあ、それは良いさ。国内だけならそんな事も言えるだろう……日本の外はもっとヤバイ事になってるがな」
唯桜はそれ以上返事をしなかった。
唯桜にとってはどうせ結論の出ている話題である。
相手が何と言おうと関係が無かった。
「ほれ、これで通れるだろ」
そこにはイビツに歪んだ防火扉が有った。
ネルソンが開けようと取っ手を引く。
「……くっ! こいつは」
びくともしない。
ドアが枠ごと歪んでいるのだ。
そう簡単には開かないのは明白だった。
「まさかこんな事になってるとはな……おい、開けられるか?」
「てめえ、誰に言ってんだ」
唯桜は取っ手を引っ張った。
ギギ……バキインッ!
簡単に取っ手が千切れた。
「おい! 何て事しやがる、もう開けられねえじゃねえか!」
ネルソンが慌てる。
「いちいちうるせえな、開けりゃ良いんだろ」
唯桜はドア枠の隙間に指を無理やり差し込んだ。
メキ……メキメキッ!
ドアが更に歪みを増していく。
ギイ……イイイイ……イ
ドアが開くと言うよりも、引き剥がされると言った方が正確だろう。
くの字に曲がった扉が枠から引き剥がされた。
頑丈な防火扉が原型も留めていない。
「オラ、行くぞ」
唯桜はそう言うと躊躇無く中へと押し入った。
これ以上何処へ行くのか。
「ここから上へ上がる」
ネルソンが足を止めて言う。
崩落した後、手付かずになっている瓦礫の山がそこにあった。
「ここって……何処だよ」
唯桜が辺りを見回した。
「何処見てるんだ。ここだっつってんだろ」
ネルソンが目の前の瓦礫の山を顎で指した。
「? 何だてめえ、おちょくってんのか?」
唯桜が眉間にシワを寄せる。
「そうじゃねえ。この瓦礫の中に本来入り口がある。その奥だ」
「ドン・ロッゴが使ってる道を教えろよ。こんなルート使えねえじゃねえか」
「んなモンねえよ」
「……てめえ殺すぞ。俺はナゾナゾなんか嫌いなんだよ。早くしろ」
ネルソンは溜め息を吐いた。
「どうしてお前はそう気が短いんだ。ドン・ロッゴが見付からねえ理由がこれなんだよ」
「るせえ。てめえに気が短いなんて言われたかねえや……で、どう言うこった?」
ネルソンは瓦礫の山に足を掛けた。
「ドン・ロッゴも守護精霊の契約者だ。俺達の誰よりも強力なな。大体契約した精霊の能力ってのは限定的な物なんだが、ドン・ロッゴのは規格が違う」
「規格が違う?」
「コンタを覚えてるだろう。アイツの能力はかなり強力だ。何せ七つの場所に空間を繋げる力を持っている。ま、そのどれかは本人にも選べないらしいが……お前も味わっただろう」
あれか。
唯桜はコンタの能力により宇宙空間に追放された事を思い出した。
ゲニウスや美紅、牛嶋、ビビアンの協力により何とか帰還できたが、確かにとんでもない能力だ。
「あれはおめえ、俺じゃ無かったら宇宙空間に出た時点で死んでるぞ」
ネルソンが笑う。
「実に残念だ」
「てめえ……」
「ははっ。まあ、お陰で今お前の力を宛に出来る訳だから、結果オーライだ」
「……まだ、ここを通る話が済んでねえぞ」
唯桜は舌打ちしながら話の先を促した。
「ああ。あのコンタでさえドン・ロッゴの能力には及ばねえ。それだけドン・ロッゴの能力は規格外だと言う事だ。まあ、そもそもコンタは戦闘向きな性格じゃないから俺達の中では格下扱いだったがな」
ネルソンはそう言って瓦礫の山を足で蹴飛ばした。
「これをお前にどかして貰いたい。でなければドン・ロッゴには辿り着けん」
「ドン・ロッゴはどうやってここを通ってるんだ」
「……すり抜ける」
「何?」
「すり抜けるんだよ。幽霊みたいにスーッとな。だから何処でも通れる。ドン・ロッゴに行けない場所は無い」
「……マジかよ。幽霊は勘弁しろよ」
唯桜は唯一と言っていい程苦手な物がある。
それが幽霊だった。
「殴れねえ奴はちょっと……」
「まさかマジで怖いのか? ぷっ、ははは! こいつは傑作だ。まさか幽霊が怖いとはな!」
「やかましいっ! このくらいてめえでどかせば良いじゃねえか! てめえも有るだろ守護幽霊」
「……守護精霊だ。俺にはもう無い」
「無い?」
ネルソンが掌を見せた。
「見ろ、指輪が無い。あれが契約者の証だ。さっきの話で合点がいったぜ。俺はいっぺん死んだ。だから偽物の俺には指輪が無いって訳だ」
ネルソンが自嘲気味に鼻で笑った。
「何で無えのか不思議だったんだが、これでハッキリした。俺は俺じゃねえ、だからそれを知る為にドン・ロッゴに会わねばならねえ。だがこの先はドン・ロッゴしか通れねえのさ」
なるほど。ドン・ロッゴは誰も信用していないって訳だ。
ネルソンでさえ自分には近付けない。
指令はさっきのバスの中までドン・ロッゴが出向いてしてるのだろう。
「へっ。ボスのくせに気も小せえ、部下の信用も無えわでクソみてえな野郎だぜ」
「だが、馬鹿強えぞ。正直お前でも勝てるか解らん」
「冗談言うな。俺は誰にも負けねえ。オヤジの野望を俺が何としても叶えさせるんだからな!」
唯桜はそう言いながら瓦礫の山をヒョイヒョイとどかし始めた。
「相変わらずスゲエ馬鹿力だな」
「うるせえよ」
「……お前のトコのボスの野望ってのは、何なんだ?」
「世界征服だ」
「は?」
「世界征服だよ! 何度も言わせんな」
ネルソンは目を丸くした。
「本気で言ってんのか……」
「たりめえだろ。オヤジがやるって言ってるんだ、俺が無理ですなんて言う訳無え。もし無理なら俺が何とかするまでよ」
唯桜は話ながら、事も無げに巨大なコンクリート片を左右にどけていく。
改造人間のパワーを持ってすれば、このくらい造作もない。
まるで重機である。
「……にわかには信じられんが、お前なら本気だろうなと思うぜ」
「本気だっつーの」
「まあ、それは良いさ。国内だけならそんな事も言えるだろう……日本の外はもっとヤバイ事になってるがな」
唯桜はそれ以上返事をしなかった。
唯桜にとってはどうせ結論の出ている話題である。
相手が何と言おうと関係が無かった。
「ほれ、これで通れるだろ」
そこにはイビツに歪んだ防火扉が有った。
ネルソンが開けようと取っ手を引く。
「……くっ! こいつは」
びくともしない。
ドアが枠ごと歪んでいるのだ。
そう簡単には開かないのは明白だった。
「まさかこんな事になってるとはな……おい、開けられるか?」
「てめえ、誰に言ってんだ」
唯桜は取っ手を引っ張った。
ギギ……バキインッ!
簡単に取っ手が千切れた。
「おい! 何て事しやがる、もう開けられねえじゃねえか!」
ネルソンが慌てる。
「いちいちうるせえな、開けりゃ良いんだろ」
唯桜はドア枠の隙間に指を無理やり差し込んだ。
メキ……メキメキッ!
ドアが更に歪みを増していく。
ギイ……イイイイ……イ
ドアが開くと言うよりも、引き剥がされると言った方が正確だろう。
くの字に曲がった扉が枠から引き剥がされた。
頑丈な防火扉が原型も留めていない。
「オラ、行くぞ」
唯桜はそう言うと躊躇無く中へと押し入った。
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