ドグラマ3

小松菜

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本編

ノープランデート

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再びここは魔人会邸。

あれから三日が過ぎた。
意外な程、何事も起きないまま時が過ぎている。
ゲニウスはそれでも興味深く、唯桜とマキを観察し続けていた。

マキの唯桜に対する執着ぶりは相変わらずである。
もうお馴染みの光景になりつつある。
一人、ショーコを除いて。

「マキ」
「はい」
「退屈じゃないか?」
「いいえ」
「そうか」

唯桜による、今日三回目の質問だった。
特にする事も無い。

「マキ」
「はい」
「何かしたい事とかねえのか?」
「今してます」
「?」
「アナタとこうしてる事がしたい事です」
「……あ、そ」

流石の唯桜も返事に困る。
別に良いと言えば良いのだが、この調子で何事も無く一週間が過ぎてしまっては、何も解らず終いだ。
マキの秘密を少しでも解き明かさなければ、どうして取り憑かれているのかも解らない。

唯桜は方針を転換した。
ソファーから立ち上がる。
マキは唯桜を見上げた。

「どうしたの?」
「よし、出掛けよう」

マキは目をパチパチさせた。

「何処へ?」
「適当だ。町をブラつく」

唯桜は当然ノープランだ。
だが、じっとしているよりは動いた方が良いだろう。
そう思っただけである。

「私も行きます」

マキが立ち上がる。

「解ってるよ。一緒に行くんだ」

マキの顔がパアッと明るくなった。

「はい!」
「ちょっと待ってろ」

唯桜はそう言うとメイドを呼んだ。

「馬車を用意しろ。町まで出る」

はい、ただ今! と声がした。
ロットの声だ。
まあ、別に誰でも良いのだが。

「唯桜さん、準備出来ましたよ」

ややあって、ロットが呼びに来た。

「町まで頼む」
「お安いご用です」

唯桜の頼みを快諾すると、ロットは御者として乗り込んだ。
唯桜は先にキャビンに乗り込むと、手を貸してマキを引っ張り上げる。

「町に何かご用ですか?」

ロットが馬車を走らせながら尋ねた。

「いや、ただの散歩だ」

唯桜はそう言って窓の外を見た。
マキは相変わらず唯桜にくっ付いていた。
鼻をクンクンさせている。

「良い匂い」

いつもの事であった。
マキは何故か唯桜の匂いを嗅ぐ事が好きだった。
それに限らず珍しい物や、興味を示す物も時々クンクンしている。

そう言う癖を持っている奴はたまに居る。
唯桜は他人の癖をとやかく言うつもりは無い。
だからマキにも好きな様にさせていた。

町に着くと唯桜は馬車を降りた。
マキも両手で受け止めて降ろしてやる。
ロットは唯桜のその行為を見て意外に思った。
ちゃんと女性を扱える事に驚いていた。
普段の唯桜のイメージからは想像もつかない。

「夕方頃迎えに来てくれ。例の店の前で頼む」

唯桜はロットにそう告げると、マキを連れて行ってしまった。

「……だ、そうです」

ロットが言う。
馬車の側に二人の人影があった。

「解った。彼女にもそう伝えておいてね」

ゲニウスはそう言うと唯桜の後を着けて行った。
美紅がその後ろに付き従う。

ロットは、ゲニウスの乗って来た馬車の御者であるショーコにゲニウスの言葉を伝えた。

「解りました。では夕方頃、また来ましょう」

ショーコはそう言って馬車を引き返した。

唯桜とマキは特に目的も無く町を歩いた。
活気の有る表通りは、何も無くてもそれだけて楽しい気分になる。
店先から突き出た商品の棚に、所狭しと並べられた様々な商品がマキの興味を引いた。

「楽しいか?」

唯桜が尋ねた。

「とても楽しいわ」

マキは本当に嬉しそうに答えた。

「何か欲しい物があれば言ってみろ。買ってやる」

唯桜がそう言ってマキを見た。
しかしマキは首を横に振った。

「ううん。私、欲しい物は無いわ」
「遠慮してんのか? 心配するな、金はある」

しかしマキはやはり首を横に振った。

「違うの。本当に欲しい物は無いのよ。アナタとこうしたかっただけ」

殊勝な女はたまに居るが、本当に何も要らないのか。
さて、じゃあどうした物か。
唯桜は困った。

しばらく考えて何か思い付いた。

「よし、じゃあ服を買おう」
「え?」
「お前も良く見れば、その服は随分着古しているだろ。俺が新しいのを見立ててやる」
「でも、私……」
「いいから来い。俺が好きなのを選ぶだけだ」

そう言うと、半ば強引に唯桜はマキを引っ張った。
マキは唯桜にくっ付いて服屋へと向かった。

町に幾つか有る衣料品店のうち、ここは比較的高級志向の店だった。
他店の品揃えよりランクが一つか二つ高い。

「こんなお店、来た事無いわ……」

マキが呟いた。
唯桜は構わずマキを店内へと引っ張った。

「オヤジ、居ねえか」

呼ばれて奥から店主が現れた。

「おや、唯桜さん。ウチの店に来るのは珍しいね。何か入り用かい?」
「ああ。実はこの娘に似合いそうなのを見繕ってくれねえか。なるべく沢山見たい」

唯桜がそう言うと、店主はお安いご用だとばかりに次々と服を持ち出した。

「スタイルも良いし美人だ。何着ても似合うだろうね」

店主は嬉しそうに服を並べる。
これだけの相手だと、服屋冥利に尽きると言う物だ。

唯桜はその中から一つ掴み取った。

「これが良いんじゃねえか?」

シンプルながら上品なワンピースだ。

「おほっ、流石唯桜さん。お目が高いね。これは一見地味だが、素材に貴重な生地を使っていてね。通なら喉から手が出る程欲しがる一着だ」

「へっ。それは知らなかったが、アイツにはこれが一番似合う」

唯桜はそう言うとマキを呼び寄せた。
ワンピースをあてがってみる。

「オヤジ、これをくれ。あと靴もコイツに合わせてくれ」

唯桜は即決した。
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