ドグラマ3

小松菜

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本編

お似合いです

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「意外とやるもんですな」

真影が唯桜を眺めながら言った。
ビビアンも頷いている。

「不思議だよね。彼はどう言う訳か人を惹き付けるんだ。彼自身は意図していなくても人が慕って着いてくる傾向がある」

ゲニウスも半ば感心しながら答えた。

秘密結社の大幹部だからと言って、人望が必要無い訳では無い。
どんな組織であれ人間を集めて統率していくのには、カリスマと呼ばれる物が必要だ。
ゲニウスは自ら改造した組織の人間には、必ずこの手の脳改造を施す。
それは前にも述べた通り必要だからだ。
しかし、唯桜には生まれつき人を惹き付ける何かが備わっていた。
それは一つの才能と言える。

「とにかく一週間、彼を見守る事にしてみよう」

ゲニウスはそう言うと、真影にしばらく滞在してはどうかと勧めた。
真影もお言葉に甘えて、とそうする事にした。

「……アナタ、それはなあに?」

マキが唯桜の首を見て尋ねた。

「ん? ああ、これは気にするな。流行りのファッションみてえな物だ」

マキは、そう言う唯桜の手を見る。

「手にも書いてあるのね」
「そうだな。全身に書いてあるぜ」

マキは目を丸くした。

「まあっ! 全身に?」

唯桜が驚いているマキの背中を押して邸に向かう。

「ああ、そうだ。だから気にするな。行こうぜ、飯がまだなんだ」

そうして二人はヘッジ・ブルから出て行った。

「何て言うか……見事なまでにお似合いですね……」

ビビアンが唯桜達の後ろ姿を見ながら言った。

「ほっほっほっ。あれではむしろ夫婦の様ですな」

真影もビビアンに同意した。

「さあ、僕達も食事にしようよ」

ゲニウスはそう言って真影を食堂へと招いた。
食堂では既に唯桜達が席に着いていた。
相変わらずマキは唯桜にベッタリくっついている。
ゲニウス達もそれぞれの席へ着席した。

「ねえ、僕達にも食事を持ってきてよ」

ゲニウスが言う。
部屋の隅に控えていたメイドが、かしこまりましたと言ってキッチンへと向かって行った。

食事を待つ間、ゲニウス達は唯桜とマキを観察した。
唯桜はどちらかと言えばいつも通りだ。
時折、マキに構ってやってるのが解る。

一方マキは見ている方が恥ずかしくなるほど唯桜に甘えていた。
体をピッタリとくっ付け、頭を唯桜の体に預けている。
流石に人目をこれだけ気にしないと言うのも珍しい。

「私、アナタの匂いが好き」

マキが甘い声で言う。

「そうか」

唯桜は特に気にしない様子で答えた。

「うん、そう。……でも嫌だわこのインクの匂い。せっかくのアナタの匂いを邪魔するんですもの」

マキが下から唯桜を見上げた。

「これは当分消えねえよ。しばらく我慢しろ」

唯桜が答える。
マキは、益々もたれ掛かる様に体を唯桜に擦り付ける様な仕草を見せた。
ビビアンはもう見ていられない。
真影は笑って見ていたが、ゲニウスは興味深く二人を監察し続けた。

しばらくすると食事が運ばれて来た。
ショーコは大皿に盛り付けられたサラダを持っている。
横目でチラリと唯桜を見る。
二人がイチャイチャする光景を目の当たりにして、ショーコの表情は鉄面皮の如く無表情と化した。

ドンッ!

乱暴にサラダの皿を置く。

「お先にサラダからお持ち致しました」

その目も顔も、どこも見ていない。
視点が真っ直ぐ前しか見ていない。
しかしその焦点は合っていない。
何だか解らないが恐い。
正体不明の悪のオーラが立ち込めている。

「……どうしたのショーコお姉ちゃん。お腹でも痛いの?」

ゲニウスが恐る恐る尋ねた。

「いいえ、別にいつも通りです。お気になさらないで下さい」

感情の無いロボットの様に答えると、同じくロボットの様にサラダを取り分け一同に配膳する。
他のメイドも次々に他の料理を運んで来る。

「ほお。これは美味しそうですな。この様なご馳走は久し振りですわい」

真影が嬉しそうな声を上げた。
ビビアンが真影の為に料理を取り分ける。

「これはビビアン殿、申し訳無い」
「いいえ、お気になさらず。さあ、召し上がって下さい」

ビビアンが真影に食事を勧めた。

「……おい、俺のサラダ少なくねえか?」

唯桜がショーコに言った。
見ると、皿の上に葉っぱが一枚乗っているだけであった。

「社長はいつもサラダを残しますので最初から少な目にしてありますが、何か?」
「いや、まあそうだけどよ。幾ら何でもこれは……」

唯桜が抗議しかけた途中でショーコが遮る。

「社長はいつも、野菜なんて良いから肉を持って来い肉を! とおっしゃるので」
「いや、だけどおま……」
「社長はいつも、野菜なんて青虫が食うモンだ。俺は虫じゃねえ! とおっしゃるので」
「いやあの、だからショ……」
「おっしゃるので」

取りつく島も無いとは、正にこの事である。
仕方無く唯桜は、皿の上の葉っぱをつまみ上げて、寂しそうにワシャワシャと平らげた。
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