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第二章

待機と嫉妬

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「ムドルさん、まだこないねぇ」

 私はそう言いながら扉の方をチラッとみた。

「そうだな。返事がきたから、そろそろくるとは思う」

「うむ……まさか、道に迷ったのでは、」

「ん? そう思うってことは、方向音痴なのか?」

 そうグレイが言うとメーメルは、コクリと頷く。

「ムドルは、軽度の方向音痴なのじゃ。まぁこの町からは出ておらぬと思う、が」

 そうこう話していると扉がノックされる。

「ん? 来たみたいだな」

 グレイは立ち上がり扉の方に向かう。そのあとをメーメルが向かった。

 どうしようか考えたあと私も二人のあとを追う。


 私はグレイの側まできた。するとグレイが、扉越しで何か話しているみたいだ。

「……なるほど。そのムドルと名乗る男が、下に……」

「ああ、そうだ。知り合いなのか?」

「俺の知り合い、というか。連れの方のな」

 それを聞いた宿屋の人は「それなら問題ないな」と言い、その場から離れムドルさんの所に向かった。


 なるほど、確かここの宿ってグレイの知り合いのって言ってたっけ。だから、何かあると大変だから用心のため確認しに来たんだね。


 そう思いながら私は、グレイとメーメルと扉の近くで待機する。

 すると廊下を歩く足音がしてきた。

「来たみたいだな」

「そうだね」

 私は頷き、チラッとメーメルをみる。メーメルは、ジーっと扉をみていた。

 扉がノックされる。グレイは確認したあと扉を開けた。と同時に視線を上に移動する。

 そうグレイとムドルさんの身長差は、恐らく約十センチあるだろう。

 グレイは一瞬だけ言葉に詰まる。

「……お前が、ムドルか」

「はい、そうです。それで、貴方が手紙に書かれていたグレイフェズさんですね。この度は、メーメル様のこと、」

「まぁ、それはいい。それより、入ってくれ。話は中でゆっくり、」

 それを聞きムドルさんは、コクリと頷き部屋の中に入る。それから私たちは、円いテーブルの方に向かった。


 その後、テーブルを囲むように椅子に座る。

「改めて……私は、ムドル・サルベドと申します」

「俺は、グレイフェズ・サイアルだ。それで、これからどうする?」

 なぜかグレイはムドルさんに対し警戒していた。

「そうですね。大体のことは手紙に書いてありましたので……。それと、メーメル様と私が魔族であることも知っているのですよね」

 それを聞きグレイは「ああ、」と言い頷く。

「メーメル様は、ギルドの依頼で護衛を引き受けた……」

 ムドルさんはメーメルの方に視線を向ける。

「ムドル、妾は……」

「ハァ~、メーメル様に何を言っても無理でしょう。それに、宛てもない旅をこのまま続けるより良いかもしれませんね」

 そう言われメーメルは泣き出した。

「うわぁ……ムドル、ありがとうなのじゃ」

 それをみたムドルさんは、ニコリと笑いメーメルの涙を綺麗な布で拭う。


 やっぱり、ムドルさんは優しいなぁ。本当に魔族なのかな?


 そう思いながら私は話を聞いていた。


 その後、話し合いの結果……。メーメルが心配とのことで、ムドルさんも一緒に同行することになる。

 だが、グレイは不満そうだ。


 もしかしてムドルさんとメーメルが魔族だからかな? でも、メーメルの時はそんな素振りみせなかったよね。


 そう思いながらグレイをみる。

 それに気づいたのか、グレイが私の方をみた。

 目と目が合う。私は慌てて目を逸らす。チラッとみると、グレイも目を逸らしている。

 なぜグレイが? と思った。だけど、なんか聞くのも怖かったのでやめる。

 そして私たち四人は、その後これからどう行動するのかを話し合ったのだった。
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