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 月曜日、週末に降り続いた雨も上がって、朝から暑い夏の日差しが照り付けていた。梅雨明けも近そうである。
 新垣先生は、拓海たちに対して、何も言ってこなかった。
 拓海たちも、何事もなかったかのように新垣先生に挨拶をし、クラスメイトたちとも接した。

 放課後、四人は、拓海の家に向った。今後のことを話し合うためにだった。
 すでに親たちも、孫代行のことを知っている。ボランティアでやる分には構わないということについても、許しを得ている。
 外は暑いし、店に入るとお金がかかるということで、拓海の部屋で話をすることにした。
 「いい部屋じゃん」部屋の中を見回した美咲が、声を上げた。拓海の家に美咲が来るのは、初めてだった。
 「じろじろと見るなよ!」拓海が、照れながら言う。美咲の視線が、壁に貼られた女性アイドルのポスターに向けられていた。
 拓海の母親が、部屋に、紅茶の入ったペットボトルと皿に盛ったクッキーを持ってきてくれた。
 四人は、しばしの時間、クッキーを食べながら、雑談を交わした。

 「今後の事を、決めなきゃいけないね」雑談が一段落した後に、海斗が、他の三人に問いかけた。
 「今後の事って、お金の使い道の事について?」七海が、確認する。
 「それもあるけど、まずは、ボランティアで孫代行を続けていくことに関してどうなのかってことがあると思うんだけど」
 「それって、反対意見な人、いるわけ?」
 七海が、不思議そうな顔をした。七海は、ボランティアで続けていくのが当然だと思っているようだった。
 「オレは反対じゃないけどさ、あとの人はどうなのかなと思って」海斗が、拓海と美咲に視線を向けた。
 「ボクは、続けるつもりでいるけど」拓海が、すかさず返事をする。
 「私も、それでいいと思っているわ」美咲も、賛成だった。
 「本当に、いいんだよね。ボランティアってことは、お金はもらわないってことなんだけど」拓海は、念を押した。三人とも同じ気持ちだとは思っていたが、こうもあっさりとみんなから賛成されると、逆に不安になってきた。
 それに対して、三人が、それぞれの気持ちを口にする。
 三人とも、藤本さんたちが自分たちに感謝をしていることを知り、また親からも認められたことで、自分自身に自信がついたという言葉を口にした。高齢者と触れ合うことで生きていくうえで大事なことが学べるという意味でも、自分たちにとってプラスになるのだとも感じていた。
 これから先どうなるのかはわからないが、続けられる間は続けようということで、四人の考えは一致した。
 交通費などの実費負担が発生した場合は、その分のお金を請求してもよいのではないかという話にもなった。お金に対する執着心の強い海斗が口にした意見だった。
 ボランティアで続けることを決めた四人は、今まで稼いだお金の使い道を考えた。四人とも、孫代行で稼いだお金には、手を付けていない。
 拓海は、昨日藤本さんと会い、お金の使い道を相談したことを話した。返されても困ると言われたことや、土曜日に学校に来なかった残り五人の孫代行を利用してくれた人たちも感謝の思いを伝えるために小遣いとして上げたつもりでいるはずだと言われたことを説明する。
 藤本さんが口にしたことは、海斗も七海も美咲も、すんなりと理解した。
 「だから、使い道は、自分たちで決めようよ。それぞれ、自分が好きな物を買うのでもいいと思うんだけど」頭の中では、四人で協力して意味のあるお金の使い道をすることを考えていた拓海だったが、あえて、それぞれが好きなように使ったらどうかという意見を口にしてみた。
 みんながそうしたいと言うのであれば、それでもいいと思っていた。
 「正直、それでいいのかなぁって気がしちゃうんだよね」七海が、すかさず答えた。
 「なんだか、違うような気もするね」美咲も呟く。
 海斗も、すっきりとしない表情を浮かべていた。彼は、お金に関して細かいが、せこいわけではない。
 「じゃぁ、どうする?」拓海は、三人に問いかけた。
 「どうしたらいいんだろう」七海が、もどかしそうな表情を浮かべる。
 三人とも、何か意味のあることに使うべきだろうと思ってはいるようだが、具体的な使い道は何も思いつかないようだった。
 そんな三人に向って、拓海は、自分の考えを伝えた。
 「オレたちの親と客になってくれた人たちを招いた食事会をやるっていうのは、どうかな?」
 「食事会?」
 海斗が、甲高い声を上げた。七海と美咲も、不思議そうな顔をしている。
 拓海の考えは、自分たちが稼いだお金で食事会を開いて、孫代行を利用してくれた八人に感謝の思いを伝えたうえで、今後も商売とは関係なく交流したいという全員の思いを伝えようということだった。
 藤本さんと斎藤さんと古川さん以外の五人は学校の先生と親たちとの間で話し合いが行われたことを知らないので、事情を説明して、そのうえで交流を続けるのであれば続けていく必要がある。八人の高齢者の間での交流が広がることも、拓海は期待していた。
 さらに、親に対して、何かをしたいという思いもあった。
 親たちは、自分たちのやっていることを認めてくれたのだ。それに対して、親孝行をしてもよいのではないだろうか。
 さすがに、この意見に対しては、海斗も七海も美咲も、すぐには首を縦に振らなかった。何のために、それだけの人数を集めてやる必要があるのかがわからないという言葉を、それぞれが口にした。
 拓海は、自分たちを通じて知り合った人たちとの間に交流が生まれることの素晴らしさや、みんなでやるからこそ、面と向かって感謝の思いを口にすることができるのだと考えていることを伝えた。親や孫代行を利用してくれた人たちに対して感謝の思いを伝えたいと思えないのであれば、ボランティアをやる意味などないのではないかとも口にした。
 熱く語る拓海に、海斗と美咲が、驚きの表情を浮かべた。同時に、わかるような気がするとも言った。七海は、はっきりと「わかるわ」と言った。
 四人の間で、何のために大勢の人数を集めた食事会をやるのかについての議論が行われた。やるのかやらないのかの議論ではなく、やることを前提に目的や内容について確認し合おうという趣旨での議論だった。
 そんな四人の思いが一つになった。
 高齢者たちと接することで、生きていくうえで大事なことをいろいろと学ぶことができる。それは、自分たちにとって、大きな財産となることである。だからこそ、ボランティアとしてやることに価値があるのだ。そのことを自分自身の心に植え付けるために、親や孫代行を利用してくれた人たちに対して感謝の思いを伝えようという思いであった。
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