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翌日の日曜日、拓海は、一日中家にこもって宣伝チラシの内容を考えた。
商売の内容は、はっきりとした。寂しい思いをしている高齢者のもとに自分たちが出向いて、話し相手になったり用事に協力してあげたりする。しかも、祖父母と孫という雰囲気のように接する。そのことを一枚の紙で表現すればいいのだ。
見栄えを良くするためのイラストやレイアウトなどはグラフィック作業を得意としている海斗あたりに任せればよいとして、チラシに載せる文章の内容は、発案者としての存在を示しておきたい。
拓海は、孫のように接しながら元気づけたいという思いや自分たちでやれることは何でもやるつもりであることを、何パターンかの文章で表現してみた。
それぞれの内容を見比べたうえで、自分的に一番うまく言えていると思うものを選び出す。そこに、料金と連絡先、営業時間を書き加える。
連絡先は、自分自身の携帯電話の番号とパソコンのメールアドレスにした。リーダーとなった自分が仕事の割り振りをするべきであり、また想定しているお客さんが高齢者であるため、そのほうが良いと考えたからだ。
営業時間は、最終的にはみんなと決めなければならないが、とりあえずは、水曜日の午後四時から午後六時までと土曜日の午後二時から午後六時まで、日曜日、祝日の午前九時から午後六時までというようにした。水曜日以外の平日は七時限目まで授業があり、午後七時の門限も守らなければならないので、このような設定が良いのではないかと感じていた。
出来上がった文章だけのチラシファイルを何度も見直した拓海は、ファイルを、海斗と七海、美咲宛てにメールで送付した。
三人からも、それぞれが考えたチラシのファイルが送られてきた。
海斗が作ったチラシには、たくさんのイラストがちりばめられていた。
七海が作ったチラシも、女の子らしくかわいらしいデザインで描かれている。
美咲に至っては、『現役中学生による孫代行サービス』というキャッチフレーズが書かれていた。
(孫代行か……)まさに拓海の思っていたことを上手に言い表した言葉だった。
おじいちゃんやおばあちゃんにとって、孫とは特別な存在なのだ。孫を可愛がり、孫と戯れることで、心が癒され、幸せな気分になれるのだ。
自分の一番の思いは、孫のように接してあげることで、心にぬくもりを与えてあげたいということである。
拓海は、そのことを三人に伝えた。
四人で意見し合った末に、チラシの原型が出来上がった。
連絡先や営業時間は、拓海の考えた案で最終的に決まった。
どの家にもカラープリンターはなかったため白黒のモノクロ色での仕上がりだったが、海斗がイラストや文字の濃淡をつけたことで、見栄えもよくなっていた。
チラシが完成したことを受けて、四人は、商売の元手となるお金として一人一万円ずつを出し合った。いずれも、手元にこっそりと貯めていたお金の一部だった。それぞれ自分名義の預金口座はあるが、通帳を管理しているのは親なので、自由に引き出すことができない。
のめり込んでもきりがないので、これ以上の元手金は用意しないことを四人は誓い合った。すなわち、今回用意した四万円を使い切った時点で結果が出ていなければ、あきらめるということである。
元手金の管理は、リーダーである拓海が行うことになった。
拓海は、元手金の管理を記録するためのエクセルファイルを作成した。
商売の準備が、すべて整った。
元手金の中からA4のコピー用紙五百枚入りを二束購入した四人は、コピー用紙を四等分した上で、それぞれの家のプリンターを使ってプリントアウトした。四等分したのは、チラシを配るのも四人で手分けして行うからであった。
チラシを配る場所については、四人は、何度も意見を出し合った。
基本は、それぞれの家の近所を避けたうえで自転車で移動できる範囲に配ろうだったが、商売をしていることを周囲に知られたくないので、学校関係者が住む地域も極力避けなければならなかった。
七海が家から持ってきた地域全体の地図と道路地図を広げた四人は、現在や過去の学級名簿に載っているクラスメイト達の住所を見ながら、危険な地域を選び出した。
しかし、それだけでは、チラシを配る場所は決まらなかった。高齢者が暮らしている家のポストに確実に配りたいという思いがあったからだ。
「どこの家に、どんな人が暮らしているのかなんて、わからないしなあ」海斗が、顔を曇らせる。
「直感的に、高齢者だけで暮らしていそうな家に配るしかないんじゃないの」
美咲の言葉が答えになった。
高齢者だけで暮らしていそうな家とはどのような家なのかについて四人で意見を出し合った結果、団地や古そうな一軒家に優先的に配ろうという話でまとまった。
チラシを配るエリアを分担した四人は、さっそく行動を起こした。
商売の内容は、はっきりとした。寂しい思いをしている高齢者のもとに自分たちが出向いて、話し相手になったり用事に協力してあげたりする。しかも、祖父母と孫という雰囲気のように接する。そのことを一枚の紙で表現すればいいのだ。
見栄えを良くするためのイラストやレイアウトなどはグラフィック作業を得意としている海斗あたりに任せればよいとして、チラシに載せる文章の内容は、発案者としての存在を示しておきたい。
拓海は、孫のように接しながら元気づけたいという思いや自分たちでやれることは何でもやるつもりであることを、何パターンかの文章で表現してみた。
それぞれの内容を見比べたうえで、自分的に一番うまく言えていると思うものを選び出す。そこに、料金と連絡先、営業時間を書き加える。
連絡先は、自分自身の携帯電話の番号とパソコンのメールアドレスにした。リーダーとなった自分が仕事の割り振りをするべきであり、また想定しているお客さんが高齢者であるため、そのほうが良いと考えたからだ。
営業時間は、最終的にはみんなと決めなければならないが、とりあえずは、水曜日の午後四時から午後六時までと土曜日の午後二時から午後六時まで、日曜日、祝日の午前九時から午後六時までというようにした。水曜日以外の平日は七時限目まで授業があり、午後七時の門限も守らなければならないので、このような設定が良いのではないかと感じていた。
出来上がった文章だけのチラシファイルを何度も見直した拓海は、ファイルを、海斗と七海、美咲宛てにメールで送付した。
三人からも、それぞれが考えたチラシのファイルが送られてきた。
海斗が作ったチラシには、たくさんのイラストがちりばめられていた。
七海が作ったチラシも、女の子らしくかわいらしいデザインで描かれている。
美咲に至っては、『現役中学生による孫代行サービス』というキャッチフレーズが書かれていた。
(孫代行か……)まさに拓海の思っていたことを上手に言い表した言葉だった。
おじいちゃんやおばあちゃんにとって、孫とは特別な存在なのだ。孫を可愛がり、孫と戯れることで、心が癒され、幸せな気分になれるのだ。
自分の一番の思いは、孫のように接してあげることで、心にぬくもりを与えてあげたいということである。
拓海は、そのことを三人に伝えた。
四人で意見し合った末に、チラシの原型が出来上がった。
連絡先や営業時間は、拓海の考えた案で最終的に決まった。
どの家にもカラープリンターはなかったため白黒のモノクロ色での仕上がりだったが、海斗がイラストや文字の濃淡をつけたことで、見栄えもよくなっていた。
チラシが完成したことを受けて、四人は、商売の元手となるお金として一人一万円ずつを出し合った。いずれも、手元にこっそりと貯めていたお金の一部だった。それぞれ自分名義の預金口座はあるが、通帳を管理しているのは親なので、自由に引き出すことができない。
のめり込んでもきりがないので、これ以上の元手金は用意しないことを四人は誓い合った。すなわち、今回用意した四万円を使い切った時点で結果が出ていなければ、あきらめるということである。
元手金の管理は、リーダーである拓海が行うことになった。
拓海は、元手金の管理を記録するためのエクセルファイルを作成した。
商売の準備が、すべて整った。
元手金の中からA4のコピー用紙五百枚入りを二束購入した四人は、コピー用紙を四等分した上で、それぞれの家のプリンターを使ってプリントアウトした。四等分したのは、チラシを配るのも四人で手分けして行うからであった。
チラシを配る場所については、四人は、何度も意見を出し合った。
基本は、それぞれの家の近所を避けたうえで自転車で移動できる範囲に配ろうだったが、商売をしていることを周囲に知られたくないので、学校関係者が住む地域も極力避けなければならなかった。
七海が家から持ってきた地域全体の地図と道路地図を広げた四人は、現在や過去の学級名簿に載っているクラスメイト達の住所を見ながら、危険な地域を選び出した。
しかし、それだけでは、チラシを配る場所は決まらなかった。高齢者が暮らしている家のポストに確実に配りたいという思いがあったからだ。
「どこの家に、どんな人が暮らしているのかなんて、わからないしなあ」海斗が、顔を曇らせる。
「直感的に、高齢者だけで暮らしていそうな家に配るしかないんじゃないの」
美咲の言葉が答えになった。
高齢者だけで暮らしていそうな家とはどのような家なのかについて四人で意見を出し合った結果、団地や古そうな一軒家に優先的に配ろうという話でまとまった。
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