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黄泉比良坂編

瓦礫の撤去と行方不明者

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瓦礫の撤去作業が今日も開始された。
既に4日目で瓦礫に埋もれていた死体はほぼ掘り出したらしい。

「後何名見つかっていないんですか?」
「3人だ。副所長の皆嶋、事務の和多森、培養関連を統括していた鰣川だ」
「以前会った皆嶋さんは除外するとして、犯人に該当する人は今のところ誰ですか?」
「一番有力なのは、所長の五十嵐だ。他の人はアイテムを所持していた形跡がない。なんらかの方法で道術関連のスキルと死霊術関連のスキルを手に入れたんだろう。厄介な話だ」

重機がアームを伸ばして瓦礫を掴んでトラックに積んでいく。
僕らがその様子をしばらく見ていると、日野さんの携帯が鳴った。

「日野だ。・・・よし、直ぐにそちらに向かう。もう1人俺の権限で連れて行くから。・・・ああ瀬尾くんだ」

電話を切って、近くにいる作業員に日野さんは一言二言何か伝えると、彼は走ってどこかに行き、数分後その手にヘルメットを2つ持って戻ってきた。

「ありがとう」

日野さんはそう言うと、僕に片方を渡してヘルメットを装着した。
僕もヘルメットを着けて日野さんの後を追って現場の中に入り、瓦礫がほぼ撤去された一区画にたどり着いた。

「ここは・・・」
「ああ。あの時の事務室だ。そしてこっちが所長の部屋になる」

あの時見た部屋の跡。
ただ・・・、

「物が少ない!」
「回収されたか!」

あの時あった本、物、そして何よりも蝿の王の腕がない!
これで本館と別館が意図的に破壊されたことが分かった。
じゃあ、どこからそれらの物を移動させたかが問題になる。
本だけでもそれなりの量があったはずだ。

「警察の方で不審な車両の目撃情報はありませんでしたか?」
「俺の耳には入っていない。一条さんに確認をとってみる!」

日野さんは離れて電話を掛けるが、声が大きくて僕にまで聞こえている。
かなり砕けた口調なのだが、仮にも上司にあたる人なんじゃないのかな?
大丈夫なのだろうか?

その後は日野さんは撤去作業をそのまま見守り、僕は一度探索者組合に戻ることになった。
組合の中に入ると1人の男が受付に何かを叫んでいる。
受付の人はなんとか宥めようと必死なのだが、男は興奮していて彼女の話を聞かない。
周囲の人たちも遠巻きに見ているのだが、何かしら理由があるみたいで誰も止めようとしなかった。

「・・・どうしたんですか?」

ひとまず男を落ち着けようと声をかけたら、涙と鼻水で無精髭を濡らした顔で僕を睨んできた。

「誰だよテメー! 横から口を出してくんなよ! こっちは一刻を争うんだぞ!」
「何があったんですか?」

僕は男を無視して受付の人に訊くと、どうやら探索者の中で行方不明者が出たらしい。
黄泉比良坂から受肉したモンスターが出てきたのか? と思ったがそうではないようで、昨日の探索から帰ってきたとこまでは確認できたのだが今日の朝から姿を見ていないそうだ。
男は探索しに行っていると思い、ここでずっと待っているのだが、既に2回送迎の車が往復しているが戻ってこない。
何かがあったと思い、受付に訴えているらしい。

「子供の名前は? あと特徴とかも教えてください。見かけたら声をかけますよ」
「ありがとうございます。次の探索する方々にお願いしようか悩んでいました。行方不明になったのは、日向秀雄くんという11才の少年です」

・・・え?

僕は男の顔をよく見た。
そういえば、あの子からお金を取っていた大人がこんな顔をしていた気がする。

「あんたはあの子の親か?」
「そうだ! 俺にはあいつが必要なんだ! 見つけたら連れ戻してくれ、頼むよー!」

僕の左腕に縋りつこうと手を伸ばしてきたので、思いっきりその手を弾いた。

「僕に触るな」
「ひっ!」
「僕はな・・・小さな子供を使って金を搾取する大人が大っ嫌いなんだよ。すみません。その子を見つけたら、一度組合に預けてもいいですか? 僕の意志としてこの親元に返したくないので」
「そんな!」
「えっと・・・」
「その子が自分の意志で戻る時は引き止めなくていいです。ただ、僕が嫌なだけです」
「まあ・・・それでいいのなら」

受付の人が了承してくれたので、僕は男を向いて睨みつけた。

「お前があの子に少しでも感謝されているなら、そばにいたいと思われているなら戻ってくるかもな」

嘆く男を受付に置いて、僕は4階の会議室に向かい扉をノックした。

「はーい」
「瀬尾です。入っても大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」

真山さんの声が聞こえたので、扉を開けて中に入った。
中にはミラクルミスティーの3人が揃っていて7並べをしている。

「どうでした? 撤去作業は」
「所長の部屋が掘り起こされたので日野さんと確認してきました。僕らが見た時よりもはるかに物が少なくなっていましたよ」
「・・・誰かが持っていったか?」
「可能性が高いです。それと、まだ発見されていない人が3名います。皆嶋さんもそのうちの1人です」
「そうか・・・」

金田さんが自分の手札を睨んで頷いた。
すごい顔で場のカードと手札を視線が移動する。

「くそ・・・パスだ」
「あ、逃げた。それじゃ私もパスね」
「私もパスします」
「お前ら・・・」

金田さんが頭を抱えて顔を伏せた。
おそらく何かを賭けているのだろう。

しばらくしていると、ノックの音がして扉が開いた。

「みなさんお待たせしました」
「よっしゃ、無効試合だ!」
「あ! ズルい!」
「往生際が悪い!」

才城さんが室内に入るのと同時に金田さんが自分のカードと場のカードをごちゃ混ぜにして、真山さんと朱野さんがブーイングをする。

「無効、無効、無効でーす」
「絶対に奢らせてやるからね」
「・・・どうやらタイミングが悪かったみたいですね」

才城さんが席について、僕は金田さんたちに説明したことを彼にも説明する。
才城さんは難しい顔をして顎を撫でた。

「3人が行方不明ですか・・・」
「何かありましたか?」
「いえ・・・まだ私の頭の中だけにしておきます」
「そうですか・・・。そういえば、組合からも行方不明者が出ていましたけど、才城さんはご存知ですか?」
「いえ、初耳です。誰か分かりますか?」
「日向秀雄くんという11才の少年です。今朝から姿が見当たらないそうですよ」
「・・・少年だと今は1人だけですね。次の便の探索者に別途依頼を出しましょう」
「そこ際に、僕も同行していいですか?」
「瀬尾さんがですか? 分かりました。防臭・防菌スーツを用意しますので15時になったらそれを着用して15時30分に下の階の受付前に来てください」
「俺らも同行するか」
「そういえば、黄泉比良坂は初めてね」
「スーツは動きづらいって聞いたことあるわね」

ミラクルミスティーの3人がワイワイ言いながら立ち上がった。
僕は1人で行くつもりだったので申し訳なかったが、金田さんが手をひらひらさせる。

「いちよ、護衛任務もあるからな。解体作業は警察の人が見てくれてただろうから外れたけど、今回は組合関係だから、しっかりついておかないと俺たちの評価にもつながる」
「私たちは3級だからそこまで注目されてないけど、2級の朱野もいるからね。耳目は気にしてんのよ」

朱野さんも「気にしないでね」と言うかのように笑顔で手を振る。
僕はそんな3人に一度頭を下げた。

「それでは15時30分に1階受付で」
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